Deja Vu All Over Again ? : ヒラリーと米韓FTA
ヒラリーが米韓FTAに反対する意向を明らかにした(Hitt, Greg, "Clinton Underscores Party's Angst Over Trade", Wall Street Journal, June 11, 2007)。ヒラリーの通商政策の揺らぎについては、このページでも触れて来たが、また一歩先に進んだ感がある。
取り急ぎ、気になった点を4つ指摘したい。
第一に、ヒラリーの「転向」は本物なのだろうか?
ヒラリーが米韓FTAへの反対を表明したのは、6月9日にミシガンで開かれたAFL-CIO主宰のタウン・ミーティング。誰を狙った演説かは一目瞭然だ。予備選挙で基礎票に媚びるのは、米国の選挙の常道である。まして、労組にとって「クリントン」という名前には、NAFTAの記憶がこびりついている。こと労組に関しては、ヒラリーにとって通商政策は「踏み絵」のようなものである。問題は、今のポジションが労組向けの一時的なポーズなのか、それとも本心なのかという点に尽きる。
第二に、こうした問いへの答を探す上で困惑させられるのが、ヒラリーが米韓FTAに反対する理屈が、余りにオールドファッションなことである。
ルービノミクス論争に象徴されるように、現在の米国の論点は、自由貿易の負の側面への対策を、通商交渉を止めてでも優先すべきなのか。止めた場合のコストをどう考えるのか、といった点にある。しかし、ヒラリーの反対理由は、自動車市場開放の不十分さ。報道やプレス・リリースを見る限り、新しいレトリックは感じられない。トランスクリプトをみていないので、即断はできないが、これではまるで、90年代の日米摩擦である。下手をすれば、次は数値目標だとでも言いだしかねない。
思えば、自動車産業を話題にすること自体に「古さ」がある。フラット化する世界の通商問題の特徴は、企業と労働者の利害の乖離である。企業は海外の安価な雇用を利用しやすくなったが、国内の労働者は逆に厳しい競争に直面する。だからこそ、最近の米国では、企業に近い共和党と労組に近い民主党で、通商政策に対する立場が分かれてきた。
しかし、自動車業界には、比較的古い構図が残っている。労使が一体となって政府に救済を求めるという方向性だ。その舞台に乗った議論は、ある意味では安易であり、新しい時代の通商政策への考え方を知るには物足りない。
第三に、とはいえ、自動車業界にも新しい風は吹き初めている。
ダイムラーがクライスラーを手放したので、ビッグ3がオールUSAに戻ってしまったのはご愛嬌だが、実は米韓FTAに対する3社の足並みは揃っていない。GMが中立の立場をとっているからだ。GMは、自動車関連税と環境規制、そして紛争解決手続きの点で、他社と立場を異にしているという。「安易な問題」も、次第に様相は変わって来ている。ヒラリーの判断には、どの程度こうした事情が勘案されているのだろうか。
第四は、オバマの出方である。
米韓FTAについては、既にエドワーズも反対を表明している。オバマは労組との関係が今一つといわれるが、他候補の動きに追随するのか。それとも、このまま「通商ではもっとも中道」という路線で行くのだろうか。
もし後者であるとすれば、通商問題は民主党予備選挙の小さくない論点になる。特にヒラリーにとっては、論戦があまりヒートアップしてしまうと、本選挙で中央に戻れなくなるほど左に寄らざるを得なくなる危険性が浮上して来るかもしれない。
それともヒラリーには、中央に戻るつもりはないのだろうか。
ということで、最初の疑問に戻る。
ヒラリーの本音は、一体どこにあるのだろうか。
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