2007/06/22

ポピュリズムは民主党の「勝利の方程式」か?

米国では、いわゆる「左」の勢いが良い。しかし、そこに盲点はないのだろうか。

6月18日から20日まで、ワシントンではTake Back Americaと題する会合が盛大に開催された。リベラル派の運動家が集まるこの会合には、民主党の三大候補が勢ぞろいした。改めて「左」の勢いが示された格好である。

リベラル系のコラムニストであるE.J.Dionne Jr.は、こうした状況を米国政治の軸が「左」に移動した証だと指摘する(Dionne Jr., E. J., "'The Left' Moves Front and Center", Washington Post, June 22, 2007)。米国政治では、何故か「左」という言葉には、悪いイメージがある。だから、「民主党は左に寄りすぎなのではないか」「中道を見捨てるのか」という議論が起こりやすい。しかし、こうした議論は、かつての中道と、今の中道は違うという事実を理解していない。有力候補者がTake Back Americaに参加したのは、「左」に媚びようとする政治的な計算からではない。「左」こそが、今の米国民の位置だからなのである。

随分と鼻息が荒い。

確かにイラク問題については、有権者は「左」に動いているのかも知れない。実際に、民主党の各候補者も、反戦方向へのシフトを進めている。

その典型がヒラリーである。昨年のTake Back Americaでは、まだ撤退に消極的だったヒラリーが、聴衆から容赦のないブーイングを浴びた。しかし今ではヒラリーも、戦争終結の必要性を強調するようになった。今年の会合では、聴衆の反応もそれほどは悪くなかったようだ(Bacon Jr., Perry, "Antiwar Democrats Are Less Critical As Clinton Takes A New Tack on Iraq", Washington Post, June 21, 2007)。

Dionneの議論で危うさを感じるのは、経済政策の部分である。Dionneは、医療保険やグローバリゼーションの問題に象徴的されるように、経済政策でも、有権者は「左」に動いていると指摘する。Dionneに言わせれば、もはやポピュリズムは異端ではない。昨年の中間選挙で、ポピュリズム的な経済政策を主張した候補が多数当選したのが、何よりの証拠である。

ここまでは事実かもしれない。

問題は「左」が適切な対応策を示しているかどうかだ。

米国の歴史を振り返ると、経済構造の転換期には、取り残されて行こうとする勢力の異議申し立てとして、ポピュリズムが度々登場してきた。そしてその主張には、反動的で理不尽な提案と、新しい時代に対応しようとする革新的な内容が、混在しているのが常だった。後者は次の時代の改革を導く手掛かりになるが、前者は歴史の藻屑と消えていった。

現在の米国も、情報化とグローバリゼーションによる、経済構造の転換期にある。その点では、ポピュリズムが生まれる素地はある。

では、伝統的な「左」が考える対策、例えば保護主義や福祉国家の再興は、次世代の政策足り得るだろうか。

Dionneも、たとえ保守が没落したとしても、有権者が一斉に「左」に動くとは考えていない。一部は、イデオロギーに引きずられた政治に嫌気が差して、現実的な「良い解決策」を求めるようになる。だからこそブルームバーグの出馬に関心が集まるのだという。

それでも、有権者が「良い解決策」を求める問題は、「右」の論点ではなく、「左」の問題意識によって形作られている。やはり、米国政治の軸は「左」に動いている。これがDionneの結論である。

さて、もう一度歴史を紐解こう。米国で「第三の候補」が盛り上がるのは、有権者の関心事を既存の政党が取りこぼしている時である。しかし、「第三の候補」が大統領に当選した例はない。むしろ、「第三の候補」による問題提起を巧みに取り込んだ政党が、有権者の支持を集めてきた。

Take Back Americaに併せて行われた人気投票の結果は、オバマが一位(29%)。続いてエドワーズ(26%)、ヒラリー(17%)という順番だった(Smith, Ben, "Obama wins Politico.com Straw Poll", Politico, June 20, 2007)。

今のところ、オバマの経済政策は、必ずしもポピュリスト的ではない。そして、「歴史」を見る限りでは、オバマの視点は間違っていないようにも思える。

むしろ問題は、勢いづく「左」が、それにどう答えるかという点にあるのかもしれない。

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