2007/06/02

for the record : ベビーブーマー2題(移民・金融資産)

久し振りに、ベビーブーマーに関する話題を。気になっていた記事を二つ紹介したい。

一つは、ベビーブーマーの将来は移民次第だという話。高齢化が進み、退職世代と現役世代のバランスが崩れるなかで、ベビーブーマーへの衝撃を緩らげるには、移民に頼らなければならない側面が大きいという議論である(Jordan, Miriam, "Boomers' Good Life Tied to Better Life for Immigrants", Wall Street Journal, May 7, 2007)。

それだけなら余り珍しくないかも知れないが、この記事の特徴は、既に米国に入国している移民の生活向上に焦点を当てている点だ。昨今の移民法改正の議論が示唆するように、米国が急速に移民を増やすことには、国内政治的にハードルがある。そうであれば、今いる移民の今後を考えた方が現実的である。

3つの視点がある。第一に、税収。移民の暮らし振りが良くなれば、ベビーブーマーを支える財政支出を支える税収が増える。

第二に労働力の質。ベビーブーマーが生活水準を維持するには、米国が競争力を保たなければならない。そのためには、質の高い労働力が不可欠。従って、若い労働力である移民のスキル・アップが重要になる。

第三は資産である。不動産はベビーブーマーの大事な虎の子の一つ。移民がハイ・クラスの不動産を買えるようになれば、不動産価格が下支えられ、ブーマー世代の資産の目減りが防げるというわけだ。

もう一つの記事は、その資産の話と関係がある。といっても、不動産ではなく、退職後の生活に備えた金融資産の話である。

ベビーブーマーが退職すれば、これまで蓄えてきた金融資産が取り崩され始め、これが株価などにも影響を与えるという考え方がある。しかし、MITのJames Poterbaらの研究によれば、2040年にかけて401(k)プランに代表される退職後向けの資産総額はむしろ増加していくという(Hulbert, Mark, "Baby Boomers Are Cashing In. So What?", New York Times, May 27, 2007)。

一つの理由は、401(k)が普及し始めてから、まだ日が浅い点にある。2003年の時点では、50%を超える家庭に401(k)の加入資格者がいる。しかし、1984年には、その割合は20%に満たなかった。このため、ブーマー世代は、資産の長期保有に伴う複利の恩恵に預かれる余地が少ない。むしろ、若年世代の資産には毎年利子が付いていく。いわゆる「複利計算の魔術」が働くわけだ。GDP比でみた401(k)の資産総額は、現在の43%から、2040年には150%以上にまで拡大するという。

その威力は、他の資産の減少分を補って余りある。この研究は、伝統的な企業年金(確定給付型)の資産総額は、徐々に減少していくと想定している。それでも、これらを併せた退職後向け資産の総額は、2040年にはGDPの1.8倍に達するとみられている(現在は同94%)。

もちろん、これは総額の話。個々人の事情は、運用次第で違ってくるし、金額の大小で「複利計算の魔術」の利き振りも変わる。個人の資産運用に比重を置くにしても、何らかの政策的な補完措置の議論は必要かもしれない。

ベビーブーマーという巨大なブロックの動向は、経済学の素材としてはなかなか面白いようだ。

0 件のコメント: