2007/06/09

Real difference ? : ジュリアーニの医療保険改革案

またか、と思われるかもしれないが、少しお付き合い願いたい。医療保険改革は、2008年の大統領選挙や、「ブッシュ後」の米国の大きなテーマだからだ。

ジュリアーニの医療保険改革案の骨格が明らかになってきた(Meckler, Laura and John Harwood, "Giuliani Health Proposal Seeks Individual Coverage", Wall Street Journal, June 7, 2007)。これまでは、オバマを中心に民主党の議論を中心に取り上げて来たが、共和党の提案はどう違うのか。その違いは、政治家のレトリックから想像するよりも、実は微妙である。

まずは、ジュリアーニのラインで説明しよう。

今のシステムの問題は、保険の選択肢が少ない点にある。高い保険しか買うことができない。勤務先を通じて保険を買っている場合には、普通は質の良い(高い)保険しか選べない。個人で市場から買おうにも、市場の参加者が少ないし、州政府が売ることのできる保険の種類(最低限のカバレッジ等)を規制している。保険会社にすれば、採算を取るためには保険料を上げざるを得ない。

鍵になるのは、個人保険市場の活性化である。そのためには、2つの方策が必要だ。第一に、勤務先経由の保険に与えられている優遇税制を改革し、個人保険を買った場合と条件を同じにする。これで、個人保険市場への参加者が増える。第二に、供給サイドでは、州の規制権限を弱体化させる。これによって、例えば、カバーされるサービスの範囲は狭いが、保険料が安い保険も売れる(買える)ようになる。買いやすくなれば無保険者は減る。

これは、民間をベースにした改革だ。補助金で医療保険を拡大する民主党の考え方とは、根本的に違う。個人への義務付けもしない。補助金が必要になり、逆に価格が上がってしまう。

民主党の改革案は、「医療の社会化(Social Medicine)」だ。

この「医療の社会化」というのが、共和党側の殺し文句である。医療保険改革、とりわけ無保険者対策の関門は、既に保険を持っている人にどう納得してもらうかという点にある。確かに米国にはたくさんの無保険者がいるが、数でいえば、保険に加入している人の方が圧倒的に多い。こうした人達は、今より条件が悪化するのを恐れている。「社会化=国営化=悪」という連想は強力である。

それはそれとして、民主党とジュリアーニの案には、本当に天と地ほどの差があるのだろうか。

試しに完成型を想像して頂きたい。どちらの案も、既存の官民ハイブリッドの仕組みを残す。しかし、企業の負担は増やさずに、その外側の保険を広げる。シングル・ペイヤーと比較すれば、こうした構造自体は、両者は近しい関係にあるのではないだろうか?実際に、ジュリアーニが提案している税制改革には、民主党サイドにも同調する意見がある(例外は労組。企業に医療を負担させたいからだ)。

そうであれば、問題となるのは、やはり「逆選択」の問題である。安くてカバー範囲の少ない保険が普及したら、リスクの偏りがさらに進むのではないか?その部分を掬い上げる手立ては必要なのか?議論はこのような方向に進むのが筋である。そして、そこで初めて、国の役割の議論になる。


選挙は必要以上に立場の違いを強調する場になりがちである。それは、候補者の立ち居地を知る上では、大事な手掛かりになるし、キャラクターを判断する材料になるという意見もある。しかし、本来なら存在する筈の、共通する議論の土台が、弾き飛ばされてしまう可能性は見逃せない。候補者が立場を鮮明にすることが、改革の実現にとって好ましいかどうかは、全くの別問題なのである。

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