2007/06/04

Like Father, Like Son : 移民が切り裂くブッシュと保守派

ブッシュはどの大統領に似ているのか。「ニクソン以来の低支持率」だの、「トルーマンみたいに後世には評価される」だの、いろいろな議論はあるが、意外に見落とされていた比較対象がある。

お父さんである。

保守派の論客であるPeggy Noonanは、移民政策に関する大統領の最近の発言を引き合いに、保守運動の遺産をないがしろにしたという点で、ブッシュ親子は同罪だと指摘する(Noonan, Peggy, "Too Bad", Opinion Journal, June 1, 2007)。いずれの大統領も、選挙の時には保守の伝統に則った政治を行なうといいながら、それを裏切ったというのである。

いうまでもなく、父親の裏切りは、Read My Rips, No New Tax破りである。Noonanは、「ブッシュは第三期レーガン政権を任されたに過ぎない事が分かっていなかった」と手厳しい。

そして、クリントンの8年を経て、新たな保守の時代を切り拓くとした息子は、移民改革の問題で、保守派を名指しで批判するに至った。

5月29日の演説でのブッシュ大統領の発言は、確かに強烈である(Rutenberg, Jim, "Bush Takes On Conservatives Over Immigration", New York Times, May 30, 2007)。「国民を怖がらせたいのであれば、この提案は恩赦だといえば良い。そうした言い方は、国民を怖がらせるための空虚な政治的レトリックだ」「米国にとって正しい事をしたくないのであれば、小さな一部分を取り上げて、国民を怖がらせれば良い」。

とくにこの「米国にとって正しい事をしたくないのであれば」というアドリブの台詞が不味かったらしい(Rutenberg, Carl and Carl Hulse, "President's Push on Immigration Tests G.O.P. Base", New York Times, June 3, 2007)。「ブッシュの政治は保守派が最優先」というステレオ・タイプの見方も手伝って、米国のメディアは、その口調の厳しさを、ある種の驚きを持って報じている。何せ保守派は、ブッシュの残り少ない支持を守る防波堤である。

もっとも、ブッシュが保守派を重視してきた背景には、政治的な計算があった。むしろ実際の政策運営では、保守派の意向が無視される局面が少なくなかった。一向に止まらない政府の拡大などは、その好例である。だいたいブッシュは、2000年の大統領選挙のときにも、痛烈な保守派批判をやらかしている(この話は前にちょっとだけ触れたが、別の機会に改めて紹介したい)。

移民問題でのブッシュの発言が特筆されるのは、保守派への態度が、「無視」に止どまらず、「攻撃」へと進んでいるからだ。Noonan曰く、too bad(僕の政策が気に入らないのは、そりゃ残念さま)から、You're Bad(お前たちがいけないんだ!)への変化である。

基本的な支持層(共和党なら保守、民主党ならリベラル)と党指導部との軋轢は、米国の政党では珍しくない。しかしNoonanは、民主党とブッシュ政権の違いを、こう指摘する。

「リベラルについて民主党は、少し頭はおかしいが、心のあり方は正しいと思っている。ブッシュ政権は、保守派は愚かで心のあり方も間違っていると考えている」。

メモリアル・デーの休会が開け、米議会では移民法改革の議論が再開される。保守派の怒りは、このままでは、イラク政策でも大統領を支持出来なくなるという議論にも発展している(Rutenberg et al, ibid)。議会の審議がどのような結果に終わるにしても、共和党には深い傷跡が残りそうである。


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