2007/03/30

Reagan or Not

共和党はレーガンの幻影をいつまで追い続けるのか。この問い掛けには、共和党の将来像に関わる本質的な議論が潜んでいる。

候補者の品定めが続く中で、レーガンの名前がさらに鳴り響く行事が発表された。カリフォルニアのレーガン図書館が、共和党の候補者を集めた討論会を企画したのである(Davis, Teddy, "Republicans Reach for Right to Reagan Mantle", ABC News, March 28, 2007)。

開催日は来年の1月30日。アイオワ、ニューハンプシャーなどの予備選が終わり、カリフォルニアなどの重要な州の予備選(2月5日)を直前に控えた微妙な時期だ。しかも、同図書館が今年の5月3日に予定している討論会とは違い、参加できるのは、その時点でのトップ2~3人だけ。候補者にすれば、呼ばれただけで大きな得点になる。

ロケーションがロケーションだけに、参加者は何とかレーガンの威光に預かろうとするだろう。こうして、次の候補者にもレーガンの刻印がしっかりと捺されていく。

ネオコンの重鎮William Kristolは、共和党の候補者がレーガンを利用しようとするのは当然だと指摘する(Kristol, William, "In 2008 It's Ronald Reagan vs. Bobby Kennedy", The Time, March 29, 2007)。レーガンは経済を再生させ、米国の自信を取り戻し、冷戦に勝利した。同時にレーガンは、共和党の主張を研ぎ澄まし、支持を広げた。選挙では2回大勝したのみならず、その人気で自分の副大統領を後継に当選させた。

ちなみにKristolは、レーガンの後継者にフレッド・トンプソンを挙げる。他方の民主党については、理想とされているのはロバート・ケネディであり、後継者はオバマだという。そして、実現しなかった「保守の王様とリベラルの預言者」の対決を夢見る。

何ともノスタルジックな議論である。

同じ保守の論客でも、こうしたノスタルジーを問題視するのが、(またかと思われるだろうが)David Brooksだ(Brooks, David, "No U-Turns", New York Times, March 29, 2007)。

論点はお得意の「政府の役割」である。Brooksに言わせれば、レーガン流の小さな政府は時代遅れである。パラダイムが「自由 vs. 権力(liberty vs. power)」から、「自由を可能にするための安全(security leads to freedom)」に移っているからだ。

確かにレーガンが登場した1970年代後半には、「大きな政府」が国民の自由の脅威だった。税率は高く規制も過剰。福祉政策が政府への依存を生み、世界では社会主義も健在だった。大きな政府は個人の自由の制限を意味していたのである。

しかし現在は違う。70年代後半の問題は後退し、代わって複雑で拡散した現象が国民の脅威になった。イスラム過激主義、破綻国家、国際競争、地球温暖化、核拡散、技術中心の経済、経済・社会的な分裂。こうした新しい脅威の前では、安全な基盤を持てなければリスクをとって可能性を試す自由は得られない。医療保険が万全でなければ新しい仕事に挑戦できない。テロから安全だと感じられれば、それだけ自由な生活が送れる。

こうした時代に求められる政府のあり方は、レーガンの時代とは自ずと異なる。国民は大きな政府を好きになったわけではないが、例えば分裂や格差の是正に政府がもっと積極的に取り組むべきだと考えている。政府が最大の敵であるかのように主張しているようでは、共和党は無党派層の感覚から乖離してしまう。

実はBrooksにとって、こうした視点は決して新しいものではない。Brooksは90年代後半から、「小さな政府」を論ずるだけでは共和党は立ち行かなくなると主張していた。97年にWall Street Journalに寄稿したWhat Ails the Right(September 15, 1997)、2004年にNew York Times Magazineに発表したHow to Reinvent the G.O.P.(August 29, 2004)がその代表だ。

また、今回の寄稿にもあるように、Brooksは現在のブッシュ大統領に期待していた時期があった。2000年の大統領選挙でブッシュ大統領は、「単純な小さな政府論」を否定する演説を行っている。Brooksは、「思いやりのある保守主義」や「オーナーシップ社会」の概念は、「国民を自由に導くために政府を積極的に使う」という発想が背景にあると考えていた。

興味深いことに、97年のWhat Ails the Rightは、今はレーガン礼賛を擁護しているWilliam KristolとBrooksの連名で発表されている。

二人のベクトルはなぜ離れたのか。そんなところにも、共和党の悩みが垣間見えるような気がする。

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