2007/03/02

持つべきものは上院議員

トヨタが北米工場の立地先をミシシッピ州に決めた。GM超えが時間の問題になるなかで、現地生産の拡充は、政治的にも効果が期待されるところだろう。

米国では、「一つの工場を出せば、2人の友人を得られる」という。各州から2人ずつ選出された上院議員は、新しい「地元企業」にとって力強い応援団になる。トヨタの場合、完成車の工場が5州、部品なども合わせれば9州に足場がある。9X2で18人の上院議員が、トヨタ経営陣のいうToyota Caucusを構成している訳だ("Why Toyota Is Afraid Of Being Number One", Business Week, March 5, 2007)。

今回も、ミシシッピ選出のロット上院議員(共)は、「あなたが私の地元企業だということは、私はあなたの戦士ということだ。あなたの利益の面倒を見ることを約束しよう」と頼もしい。UCバークレーのHarley Shaiken教授は、「ロットはトヨタ州選出の上院議員だといっているのだ」なんて評している(Freeman, Sholnn, "SUV Plants Strengthens Toyota's Foothold in U.S.", Washington Post, February 28, 2007)。

危機感を持っているのはビッグ3。彼らにとって、北米でのリストラは、ワシントンでの影響力の低下に直結する。1月にはGM副会長のルッツ氏が「今やトヨタの方が政治力がある」と発言してしまった。「悲しいことに、トヨタは利益をあげてたくさんの州に工場があるので、正直に言ってGMよりも多くの議員をかかえている」んだそうだ(Bunkley, Nick, "G.M. Officer Says Toyota is Stronger in Washington", New York Times, January 10, 2007)。

GMは完成車だけで11州に工場があるし、議員の数で負けているというのは言い過ぎだとは思う。1月31日にポールソン財務長官が、上院銀行委員会の公聴会で「日本政府の円安誘導」について詰められていたが、あれだって質問したのは、GMの工場があるデラウェアの上院議員だ。

ところで、トヨタとGMの応援団の中身を比べると、党派のバランスがだいぶ違う。トヨタの場合、今回を含めて南部寄りに出ているので、民主党3人vs.共和党7人と共和党の比率が高い。中西部に基盤があるGMは、民主党10人vs.共和党12人でもっとバランスがいい。

但しトヨタもツボは押さえている。少ないとはいえ、完成車工場がある5州の民主党上院議員には、2人の委員長がいる(もっとも両方ともカリフォルニア州だが)。数的にはGMと同じである。まして共和党では、No.1(ケンタッキーのマコネル)とNo.2(ロット)を擁している。これは強力だ。

見逃せないのは部品工場。4州の8人を足しても民主党は3人しか増えないのだが、ポイントはウェスト・バージニアにも工場があることだ。この州の上院議員といえば、上院最長老にして政府の財布をにぎる歳入委員会のバード委員長。そして、これも重鎮のロックフェラー議員だ。なんとウェスト・バージニアの日本事務所は名古屋にあるそうで、とくにロックフェラー議員はトヨタにとって大切な応援団だという(Business Week, ibid)。

ロックフェラー議員といえば、もう一つの顔として、鉄鋼産業の代弁者というのがある。日米鉄鋼摩擦の時にはかなり煙たい感じだったが、実は日本との関係は悪くないのである。

もっとも、企業が立地を決めるのはビジネス。政治的なポイントは、判断基準のひとつに過ぎない。トヨタがミシシッピを選んだのも、労組の弱い南部に出るという戦略の一環であり、近隣のアラバマに部品工場があるというロジカルな選択だった。次の進出先はメキシコともいわれるが、たしかあそこには上院議員はいなかったと思う。

日米の自動車会社もいつも角を突き合わせているわけでもない。昨年末には、日米の自動車会社が共同戦線を張って、鉄鋼に関するアンチ・ダンピング税の打ち切りを勝ち取った。ロックフェラー議員は困っただろうが、これがグローバリゼーションの現実だ。ケンタッキーやテキサス、インディアナみたいに、トヨタとGMの工場が両方ある州だってある。

それはそうとして、自動車業界の注目はクライスラーの行方。これで中国がクライスラー買っちゃったら、さて議員たちはどう反応するのだろうか( Cha, Ariana Eunjung and Tomoeh Murakami Tse, "A U.S. Car Deal With A Little Chery on Top?", Washington Post, March 2, 2007)。いくら何でもとは思うが...

*文中のGMの工場立地は、2006年5月24日付のWall Street Journal紙、トヨタは同社HPを参考にしました。

0 件のコメント: