国境を越えて行こう!
企業の論理も、個人の論理も国境を超える。「国家」の枠で政策を考えるのは難しい時代だ。
企業の論理が時に国境を超えるのは、トヨタの事例を引くまでもない。
既に書いたように、トヨタはミシシッピに新工場の建設地を決めた。しかし、トヨタは、政治的な理由で建設地を決めたのではないと主張している。北米に工場を建設するのは、「需要があるから」。ミシシッピを選んだのも、州政府による優遇税制などの誘致策が理由ではなく、労働者や教育の質の高さ、物流関連のインフラの良さなどが決め手になったという。実際のところ、全米で25の州が工場誘致に興味を示したというが、ミシシッピ州は、トヨタが思ったほど誘致策を求めなかったので、部品工場の誘致に力を入れることができたそうだ。
3月14日の下院エネルギー・商業委員会の小委員会で開かれた公聴会では、トヨタがビッグ3や全米自動車労組と共に証人として出席し、燃費規制問題で共同戦線を貼るという光景がみられた(もっとも、トヨタと米側は微妙にニュアンスが違ったが)。かつての敵どころか、今のライバルでも、組むべきところは組む。そういう時代だ。
そうかと思えば、あのハリバートンがCEOをドバイに移すというニュースもあった。ハリバートンはブッシュ政権との近さが指摘されるだけに、早くも民主党は、政府調達関連の不正に関する調査や、米国の税金から逃れようとしているのではないかといった批判を繰り広げている(Krauss, Clifford, "Halliburton Office Move Is Criticized", New York Times, March 13, 2007)。
しかしこうした批判は的を射ているのだろうか?CATO研究所は、今回の決定はCEOの移動に過ぎず、同社は米国に法人税を納め続ける筈だと指摘している。それどころかCATO研究所は、米国の法人税の重さを考えれば、同社は海外の会社に生まれ変わった(expatriation)方が良いと主張する。政治家は、同社の行動を批判するよりも、米国の法人税制を見直し、米国企業が国際的に対等に戦えるように考えるべきだというのが、CATO研究所の立場だ(Mitchell, Daniel J., "Will Halliburton Escape America's Bad Tax System?", CATO@Liberty, March 12, 2007)。
企業だけでなく、個人の論理も、国の論理を離れる。それどころか、齟齬を来たすことさえあるというのが、貯蓄率の話である。
2月28日に下院予算委員会が、バーナンキFRB議長を証人に招き、米財政の長期的な課題に関する公聴会を開いた。バーナンキ議長は、中長期的な財政事情の悪化は、国の貯蓄率を低下させ、米国の将来的な生産能力の拡大を阻害すると警告した。これからの米国は、高齢化で労働力率が低下していくと見られている分、生産能力の拡大で補えなければ、次世代の生活水準が悪影響を受ける。
この公聴会の中で、家計部門の貯蓄率の低さに関する質問を行ったのが、共和党のCampbell議員である。国の貯蓄率は政府部門(財政)と、民間部門(家計・企業)の合計。米国はどちらの部門も貯蓄率が低い。
Campbell議員:家計の貯蓄が低いのは、米国民が持ち家や株のキャピタル・ゲインを資産と考え、その分、伝統的な『貯蓄』に力を入れていないのではないか。そうした判断があるのであれば、家計の貯蓄率の低さは問題とはいえないのではないか。
バーナンキ議長:広い意味では、家計の行動は合理的だ。しかし、国の経済という観点では、キャピタル・ゲインには生産設備などの投資に廻せないという問題がある(キャピタル・ゲインは貯蓄として計算されない)。
Campbell議員:ということは、家計の視点と国の視点にはズレがある。家計にとって好ましい方策は、国にとっては害になる。どうやって両立させるのか?
なかなか鋭い。ちなみに、バーナンキ議長の回答は、「議会の役目は、政府部門=国の財政赤字を減らすこと」というものだった。答えているような、いないような。
ちなみにCampbell議員は、米国公認会計士の資格をもち、税制にも詳しい。ホームページによれば、議員になる前は、「自動車メーカーのフランチャイズを代表する」仕事をしていたという。
代表してきたメーカーがまた素晴らしい。
ニッサン、マツダ、フォード、サターン、サーブ。
うーん、確かに国境を越えている。
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