2007/03/20

ジュリアーニの謎…Revolutions…レーガンを探して

ジュリアーニは保守派に受け入れられるのか。その答を知るカギは、保守派が求める理想の候補者像は誰なのか、という問い掛けにある。簡単そうで、難しいもう一つの謎だ。

なぜ簡単そうに見えるのか。答は一つしかないからだ。もちろんロナルド・レーガン元大統領である。

Hands down. No question about it.

3月1~3日に開催された保守派の集まりCPACの総会では、会員を対象にした世論調査の結果が発表された。質問の一つが、「レーガンの共和党員と自称する候補者と、ブッシュの共和党員を自負する候補者のどちらを支持するか?」だった。結果は圧倒的。79%がレーガンを選び、ブッシュは3%である。

ブッシュはたったの3%だ。現職の大統領なのに。

それでは、ジュリアーニの課題は、どこまでレーガン的になれるかにかかっているのだろうか。

CPACでのジュリアーニの受けは今一つだった。同じ調査では、08年の候補に誰を選ぶかという問いもあった。もっとも支持を集めたのはロムニーの21%。ジュリアーニは17%で2番手に甘んじた。

もっとも、ロムニーの勝利は、学生の支持者を動員した結果。ジュリアーニにすれば、組織も動いていないにしては、上出来との声もある(Fund, John, "Searching for Mr. Right", Opinion Journal, March 5, 2007)。但し、最大のライバルであるマッケインは、CPACとの関係が悪く、総会に出席すらしていなかったのだが…

むしろ評判が悪かったのは、ジュリアーニの演説だ。ジュリアーニは保守派が疑念を持つ社会政策の話題を避け、ごく普通の選挙演説を行なった。いわゆるRed Meatのない内容には、「本気で大統領になりたがっているとは思えない。大統領選挙は長い付き合いのようなものだが、最初の知り合う段階を過ぎても、有権者がジュリアーニとデートしたいと思うだろうか」などと評されている(Marcus , Ruth, "Can Rudy Get Past the First Date?", Washington Post, March 7, 2007)。

レーガンの魔力は、ジュリアーニも理解している。CPACでは、ジュリアーニも犯罪、福祉、税金を減らしたという点で、レーガンを意識した演説を行ったという。一方のロムニーも、減税と小さな政府で応酬した。

さらにジュリアーニは、社会政策での保守派との意見の違いも、レーガンを引用してかわそうとした。曰く、「かつてレーガンは『80%の場合に私の味方であれば、20%は敵だというわけではない』と述べた。つまり、われわれはすべてのことで意見が完全に一致するわけではない。私とあなた方は多くの信念を共有している。一方で、異なった信念もいくらかは持っているということだ(Nagourney, Adam, "Republican Hopefuls Seek Advantage on Social Issues", New York Times, March 3, 2007)」。

しかし問題はそう単純ではない。明らかそうで明らかでない疑問があるからだ。

レーガン的とはどういうことなのか?

考えてみて欲しい。果たしてレーガンの治世は保守主義の理想の時代だっただろうか。確かにレーガンは1981年に大型の減税を行った。しかし翌82年には増税も断行している。小さな政府というが、軍備増強に走ったために、財政赤字は大きく拡大した。移民対策でも、現在保守派が反対している「恩赦」に似た対応をしたのがレーガンだった。さらに肝心の社会政策でも、穏健派のオコナーを最高裁に指名したのはレーガンではなかったか。

これに比べれば、ブッシュ政権は立派である。財政政策では、ブッシュ政権は一貫して減税重視。どんなに攻撃されても、正面から増税を取り上げたりはしない(最近では裏口からの増税は否定しないが)。財政赤字も一時は拡大したが、足元ではずいぶん落ち着いてきた。最高裁判事も、マイヤーズ問題という失点こそあれ、結局はオコナー判事の後任に保守派のアリートを据えた。

何が両者の違いなのか。

外交評議会のPeter Beinartは、冷戦の崩壊をその理由にあげる。レーガン時代には、ソ連への対抗という理念が、保守派のレーガンへの評価を甘くした。ブッシュ政権でも、9-11直後にテロとの戦いが幅広い支持を集めていた時期には、保守派もブッシュ政権を支持していた。ところが、イラク戦争の泥沼化に連れて、保守派はこうした「強気の外交」を支持していられなくなった(Beinart, Peter, "Searching for Another Reagan", The Time, March 9, 2007 )。

そうであるならば、マッケインにもジュリアーニにも良いニュースではない。どちらも「強いリーダーシップ」を拠り所にしているからだ。

自分が注目するのは、ブッシュ政権や議会共和党の政府を運営する能力への疑問である。ハリケーン・カトリーナが一つの大きなきっかっけだが、そのほかにも、マイヤーズの最高裁指名、議会スタッフに対する猥褻メール事件、リビーの裁判、さらに最近では、連邦検察官の人事への介入、陸軍病院の管理運営…イラク戦争が典型だが、「理念はともかく結果が伴っていない」ことが、保守派の幻滅を招いているのではないか。昨年の中間選挙で数々のスキャンダルが論点になったことにしても、共和党が保守的な考えを持っているかが問われたのではなく、その実践の仕方、すなわち「法と秩序」を尊重しなかった点が汚点になった(Tumulty, Karen, "How the Right Went Wrong", The Time, March 15, 2007)。

外交の問題についても、政策運営能力につながる側面がある。結局のところ、レーガンは軍隊を使わずに、冷戦を勝利に導いた。イラク戦争は、米軍の犠牲者を出しながら泥沼状態だ。

何しろ共和党は去年まで大統領と議会を完全に制覇していた。にもかかわらず、なぜ保守のアジェンダが進まなかったのか。そんな幻滅があってもおかしくはない。

もっとも、ポール・クル―グマンは、いわば逆方向から、政策運営能力に焦点を当てる。彼に言わせれば、レーガンの評価が高いのは、議会を民主党に支配されていたために、保守の政策を貫徹出来なかったからだ。金持ち・大企業・宗教右派のこと以外に興味がない保守運動の政策こそが問題であり、ブッシュはそれを最大限に実践してしまったから、失敗したのだという(Krugman, Paul, "Don’t Cry for Reagan", New York Times, March 19, 2007)。

いやはや。

アーカンソーのハッカビー前州知事は、今年のCPACの雰囲気をこう表現したという。

"Dude, Where’s My Candidate?"

果たして保守派はどういう基準で候補者を選ぶのだろうか。保守派はレーガン的な候補者を探しているというよりも、どんな候補者を探せばいいのかに困惑しているようにすら感じられる。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

上院は6割ないと法案が通過しません。ブッシュ共和党はスーパーマジョリティーをとっていなかったから保守の理念のとおりの政策はできなかったんですよ。