2007/03/29

Window Shoppingはお好き?

欲しい物が分からなければ、買い物には時間がかかる。良くある話だ。

大統領選挙のフィールドが、なかなか落ち着かない。有力視されていた候補がバタバタと脱落し(例えば民主党ではワーナー、バイ、共和党ではフリスト、アレン)、民主党も共和党もビッグ3に絞られたと思いきや、更なる候補の噂が絶えない。

民主党のゴアについては何度か触れたが、共和党も例外ではない。最近では、俳優で元上院議員のフレッド・トンプソンが出馬を検討していると報じられた(Shear, Michael D., "A 'Law & Order' Presidential Candidate?", Washington Post, March 29, 2007)。他にも、チャック・ヘーゲル上院議員やギングリッチ元下院議長のように、正式な出馬は先延ばしているものの、色気を隠さない「隠れ候補者」もいる。ヘーゲル議員などは、重大発表をするといって報道陣を地元(ネブラスカ)に集めておいて、「将来的に出馬の有無を決めます」と意味のない会見をやらかした(Milbank, Dana, "When No News Is Strange News", Washington Post, March 13, 2007)。そうかと思えば、ニューヨークのブルームバーグ市長が、無所属で出るかもしれないという記事まで出る始末だ(Shear, Michael D., "N.Y. Mayor Is Eyeing '08, Observers Say", Washington Post, March 26, 2007)。

結局のところ、有権者はどんな候補者を求めているのだろうか。

専門家の見方は、「いつもとは違う」という点では共通する。しかし、どう違うのかについては、必ずしも意見が一致しない。

選挙分析のプロ中のプロ、Charlie Cookは、今回の選挙では「経験」よりも「希望」が求められる度合いが、いつにもまして強いと指摘する(Cook, Charlie, "Discounting Experience", National Journal, March 17, 2007)。

Cookにいわせれば、その現れがオバマでありジュリアーニだ。オバマは国政の経験が浅い上に、首長の経験があるわけでもない。それでも民主党の予備選挙を争っている、現役の上院外交委員会委員長(バイデン)や銀行委員会委員長(ドッド)、エネルギー長官・国連大使経験者(リチャードソン)よりもずっと人気者だ。ジュリアーニにしても、国政の経験はない。これまでの経緯といえば、党内の保守派と相容れない主張など、「サムソナイトの倉庫よりも沢山のお荷物がある」状況だ。

Cookは有権者が「希望」にかけるのは、現在のリーダーへの幻滅の裏返しだという。ともすれば、幻滅は懐疑的な態度につながりがちだが、それでも大統領は大事だと考えるのが米国人。有権者は経験よりも目に見えないリーダーシップの資質を求めているというのが彼の主張だ。

自分のお気に入りのDavid Brooksはちょっと違う。策略に長けた実力派が求められるのではないかというのだ(Brooks, David, "For 2008: An American Themistocles", New York Times, March 25, 2007)。

Brooksは、通常であれば、米国の有権者は裏表がなく誠実で高潔な候補者を好むという。胸を躍らせるような候補者が望ましく、とくにウォーターゲート事件の後からは、陰謀などで腐敗していない人が求められる。アウトサイダーが好まれ、確実性より新鮮さが受ける。汚い国政で揉まれて会得した技術よりも、内面から来るリーダーシップが望ましい。

最後の部分は、「今回の特徴」としてCookが挙げているのと似通っている。しかしBrooksは、今回の選挙では、有権者はピュアで高潔な候補者を追うという夢をあきらめ、覚めた眼で投票に臨むのではないかと指摘する。

その理由は、米国の敵がずる賢くなっているから。アルカイダ等の米国の敵は、腕力の弱さを知力で補うようになったのに、米国は力にあぐらをかいてきた。次のリーダーは、過激派に対抗するには時には専制君主とすら手を組まなければならないし、力ずくではなく、他国の国益に訴えていかなければならない。そのためには、国家の能力と限界を知っている必要がある。ガンジーやマンデラではなく、ビスマルクやシャロンが求められているというのが彼の見立てなのである。

と思えばPaul Krugmanは、個人のキャラクターではなく、政策本位で候補者を選ぶべきだと主張する(Krugman, Paul, "Substance Over Image", New York Time, February 26, 2007)。

Krugmanは、「6年前には知的にも気質的にも向いていない人間が国を運営することになってしまった」と(いつものように)辛らつだ。その理由は、ブッシュが予備選挙を豊富な資金で早々に勝ち抜けてしまい、その後はメディアがまるで選挙を高校の人気者コンテストのようにしてしまったからだという。一緒にいると楽しそうだというだけで、政策のあいまいな部分は見過ごされ、失敗した候補者は洋服やら男らしさやらを理由にからかわれる。結果としてこれだけ国が苦しんでいるのに、今回の選挙もやはり本質論のない人気投票の様相を呈していると彼は憤り、医療保険、財政赤字、税制への態度、外交面の立ち位置を基準に候補者を選ぶべきだと主張する。

現在への幻滅から「違うもの」を求めるといっても、その意味するところはさまざまだ。

あっという間に終わってしまう日本の選挙と違い、大統領選挙はまだまだ長丁場。買い物というのは、物色しているときが一番楽しいものである。

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