2007/03/05

ジュリアーニの謎、マッケインの矛盾

「ジュリアーニの謎」をどう考えるのか。米国選挙ウォッチャーにとって目下最大の課題であり、踏み絵である。序盤戦の雲行きは、ジュリアーニが共和党の候補者に選ばれるという、「あり得ない」展開を示唆しているからだ。

世論調査では、ジュリアーニの圧勝である。共和党のトップランナーと目されていたマッケインに、どんどん差をつけている。本選を視野に入れても、ジュリアーニなら誰が民主党で勝ち上がって来ても大丈夫だ。

歴史もジュリアーニの味方である。序盤のフロントランナーが失速しやすい民主党とは対照的に、共和党は早めに候補者を絞り込む傾向にある。最近10回の予備選挙では、序盤でリードを奪った候補が逃げ切ったケースが7回もある。しかも残りの3回は、現職候補が再選された時である(Lester, Will, "Early 2008 Polls Offer Important Clues", AP, February 25, 2007)。共和党は本命をサッサと作りたい党なのだ。

人気の理由は2つ。第一に、リーダーシップへの評価。9-11への対応はもちろん、ニューヨークでの犯罪対策も伝説的だ。第二に、民主党を相手にしても、「勝てる」という期待感がある。08年に向けて、共和党の展望は決して明るくない。というか、思い切り暗い。特に、イラク戦争などを契機に無党派層の支持ががた落ちなのが痛い。しかしジュリアーニは無党派層に人気がある。大票田のニューヨークやカリフォルニアで、ヒラリーに冷や汗をかかせられるのは、ジュリアーニだけ。そういう計算が働いてもおかしくない。

それでは、なぜ玄人筋にとっては、「あり得ない」のか。端的に言って理由は2つ。第一に、社会政策での立場。中絶・銃規制・同性愛の権利に賛成する人物が、今どきの共和党の候補者に選ばれる訳がない。

実は世論調査では、共和党支持者の四分の三が、ジュリアーニの社会政策のポジションを知らず、もし知ったら、35%が他の候補に流れる可能性があるという結果が出ている(Cook, Charlie, "Hillary Rising", National Journal, February 24, 2007)。

第二は、私生活。3度結婚しているのは有名だが、ニューヨーク市警との関係や(国土安全保障長官になりそこねた人を覚えていますか?)、ビジネス関連でも叩けば埃が出てきかねない。長丁場の選挙戦に耐えられる訳がない。

だからベテランの専門家ほど、見る眼は厳しい。チャーリー・クックは、世論調査の数字にかかわらず、共和党の予備選挙は混戦だと言う(Cook, ibid)。スチュワート・ローゼンバーグにいたっては、社会政策でジュリアーニのようなポジションの人間が共和党の大統領候補に選ばれるのは、「自分が生きている間はありえない」とまで言い切っている(Rothenberg, Stuart, "Is Rudy Likely to Be a Favorite or a Flop?", Roll Call, January 16, 2007)。

当然のことながら、対立候補は「ジュリアーニの真実」に焦点を当てようとするだろう。誰が仕組んだかは知らないが、既に、「ニューヨーク市長時代にジュリアーニは保守的な判事を任命していなかった」なんていう記事が出ている(Smith, Ben, "Giuliani Judges Lean Left", Politico.com, March 3, 2007)。先週末に行われた保守派の集まりであるCPACでのジュリアーニの演説への反応も、それほど好意的ではなかったようだ(Balz, Dan, "Giuliani Has No Real Chance With GOP Voters ... or Does He?", Washington Post, March 4, 2007)。

保守派はジュリアーニを認めるのだろうか。最近の米国では、「実はジュリアーニは保守派だ」といった趣旨のオピニオン記事が驚くほど多い(たとえば、Malanga, Steven, "Giuliani the Conservative", Opinion Journal, February 28, 2007)。もっとも、何とか「勝てる候補」に集結したい保守派の、「そのためには地均しも厭わない」という涙ぐましい努力なのかも知れないが...。

それよりも見逃せないのは、「ジュリアーニの謎」のコインの裏側には、「マッケインの矛盾」があることだ。社会政策や財政政策ではジュリアーニよりも余程保守的なのに、なぜ保守派の支持を得られないのか。

TCS Dailyに掲載されたカリフォルニアのジュリアーニ人気を報じた記事は、その辺を鋭く突いている(McClellan, Michael Brandon, "Why Giuliani Is Golden", TCS Daily, February 27, 2007)。

要はイメージの問題である。

保守派にとってのマッケインのイメージは、いつまでたっても「主流派に反旗を翻す一匹狼」である。保守派の影響力を削ぐような選挙資金法改正に賛成し、最高裁判事の指名では、「Gang of 14」を率いて、保守派の意向に背いた妥協に走ろうとする。党よりも自分が大事なのがマッケイン。そんなイメージが染み付いている。

他方でジュリアーニが連想させるのは、断固としたリーダーシップ。共和党支持者にとっては、そのタフなイメージが、社会政策でのリベラルさを忘れさせるほど魅力的だ。

無責任な立場でいわせてもらえば、興味があるのはジュリアーニが候補者になった後の展開である。「ジュリアーニの共和党」は、これまでの共和党とはずいぶん違う。大統領選挙の時には、議会選挙も併せて実施される。共和党の候補者は、どうやって戦うのだろうか?

しばらく前にある共和党の議会スタッフが、08年選挙の予測をこう述べていた。「民主党はヒラリー、共和党はジュリアーニが候補に選ばれ、ジュリアーニが勝つ。そしてみんなを怒り狂わせる」。

「生きている間はありえない」といわれてしまうのは残念な気もする。

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