ブルームバーグ出馬で「風景」はどう変わる?
ブルームバーグNY市長の動向が俄かに注目され始めた。同市長は、選挙登録を共和党から無所属に変えたことを明らかにした(Shear, Michael D., "N.Y. Mayor Bloomberg Leaves GOP", Washington Post, June 20, 2007)。このことが、同市長が大統領選挙への出馬を考えている証だと論じられている。米国で、二大政党に属さない候補として大統領選挙への出馬を目指すためには、今回のような措置が手続き的に必要になるからだ。
William Safireによれば、最近までブルームバーグ市長本人は、"A short, Jewish billionaire from New York? C’mon."とか言っていたらしいが、本音のところはどうなのだろうか(Safire, William, "Tiers in My Eyes", New York Times Magazine, June 17, 2007)。
ブルームバーグ市長の出馬が取り沙汰されるようになった政治的な背景については、追々ゆっくりと触れたいと思うが、下世話な関心は、仮に出馬した場合の選挙への影響である。
詳しい説明は後日に譲るが、端的に言って、第三の候補が素直に大統領選挙に勝つのは容易ではない。むしろ第三の候補は、既存政党の候補から票を奪うことで、選挙結果に間接的に影響を与える可能性の方が高い。1992年にロス・ペローがいなかったら、クリントン政権はなかったかもしれない。2000年の選挙にラルフ・ネーダーが出馬していなかったら、ゴア大統領が誕生していただろう。
問題は、ブルームバーグ市長は誰から票を奪うことになるかである。これが何ともハッキリしない。何せ、同市長は共和党から市長選に出馬するまでは、民主党員だったのだから紛らわしい。
例えばNew York Timesは、民主党から票を奪うのではないかと指摘する(Cardwell, Diane and Jennifer Steinhauer, "Bloomberg Severs G.O.P. Ties, Fueling Talk of ’08 Bid", New York Times, June 20, 2007)。確かに、同性愛などの社会政策に対する同市長の立場は、共和党には受け入れにくいかもしれない。また、党派を超えた政治を標榜するだけに、同じような「新しい政治家」を謳うオバマとはかぶりやすいともいえる。
そうかと思えばRasumussen Reportsは、ブルームバーグ市長は共和党にとっての脅威になると分析する。同社が4月2~3日に実施した世論調査では、ヒラリーが民主党の候補者だったとした場合、ジュリアーニやマケインとの一騎打ちではほぼ同率の支持率だが、ブルームバーグが選択肢に加わると、ヒラリーがどちらの候補者にも9ポイントの差をつけた。ちなみにブルームバーグ市長の支持率は8~9%である。また、同社が5月30日に行った世論調査では、共和党の候補では勝てないと思われた場合の方が、同市長に乗り換える有権者の割合が高いという結果も出ている。具体的には、共和党の候補が勝てないと思った場合、46%がブルームバーグ、37%がヒラリー、17%がそれでも共和党の候補に投票すると答えている。反対に、民主党の候補者が勝てそうもない場合には、ジュリアーニが35%、ブルームバーグが34%、それでも民主党の候補に投票するというのが31%だった。
いずれにしても、この点に関しては、様々な世論調査が行われるのは間違いないだろう。
ちなみにRasumussen Reportsは、選挙マニアには応えられない話題も提供している。ブルームバーグ市長が、違う角度から大統領選出のプロセスに影響を与える可能性である。
鍵は大統領選挙人にある。米国の大統領選挙は、各州に人口比で割り当てられた「大統領選挙人」の争奪戦である。大統領になるのは、過半数の選挙人を獲得した候補者だ。このため、仮にブルームバーグ市長が幾つかの州で勝利を収めたりすると、どの候補も過半数の選挙人を得られない可能性が出てくる。
そうなるとどうなるか。大統領の選出は、下院の投票で決められる。但し、各州に割り当てられる票数は1票ずつである。現在の下院では、民主党の議員が多数を占める州(26州)の方が、共和党が多数を占める州(21州)を上回っている(残りは同数)。しかしその中には、1議席差で民主党が辛うじて多数を保っている州が少なくとも12州あるという。つまり、下院選挙のちょっとした動きで、大統領の行方が左右されかねないのである。
もっとも、この想定はブルームバーグ市長が、ある程度の選挙人を獲得するというのが前提である。そうであれば、脅威に感じなければならないのは、やはり民主党の方かも知れない。市長の地元のニューヨークや隣のニュージャージーは、伝統的に民主党が強い。民主党の候補が誰であれ、この辺りの州を落としては、過半数の選挙人の獲得は難しいのではないだろうか。
自分のPCには、各州の選挙人数を打ち込んだスプレッド・シートが用意されている。とはいえ、いくらなんでもシュミレーションを始めるのは早すぎる。取り敢えずは、一応作ってあった「ブルームバーグ」のファイルを開くことで、満足しておこう。
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