2007/06/06

Candidate of Almosts ? : 医療改革案からみたオバマ

予想されていた通り、オバマが提案した医療保険改革案は、他の民主党の主要な候補の提案と、概ね似通った内容であった(Lazewski, Robert, "Clinton, Edwards, Obama--Offering Health Care Reform Proposals More Similar Than Different", Health Care Policy and Marketplace Review, June 4, 2007)。

しかし、この「概ね」というのが曲者だ。

米国でちょっとした話題になっているのが、オバマの改革案が厳密には皆保険制ではないことである。

説明が必要だろう。民主党の改革案の主流は、医療費の引き下げと、公的保険の拡大、民間保険市場の改革等によって、官民ハイブリッドの現在のシステムを活かしながら、無保険者を減らそうというもの。こうした方向性は、ほぼ固まっている。

しかし、こうした改革は、国が運営する一つの保険(シングル・ペイヤー)ではないから、それだけで無保険者が解消されるわけではない。やり方は幾つかあるが、マサチューセッツやカリフォルニアなどの州政府による最近の改革では、個人に保険への加入義務を課すことで、皆保険制を実現しようとしている。既に発表されているエドワーズの改革案にも、こうした「個人への義務付」が含まれているが、オバマの改革案には、これに相当する提案がない。従って、オバマの改革案は、「ほとんど皆保険」にはなるかもしれないが、「皆保険」には届かない。

なぜ「義務付」が必要なのかという点については、政策的な観点からしっかりとした議論がある。これについては、近日中に触れるつもりだが、ここで注目したいのは、この問題をオバマのキャラクターに関連付ける議論である。

例えばAmerican ProspectのEzra Kleinは、「ほとんど皆保険」を提案してしまったオバマは、「あと一歩」の候補者であることを露呈してしまったと指摘する(Klein, Ezra, "A Lack of Audacity" American Prospect, May 30, 2007)。才能はあるし、レトリックも素晴らしい。しかし、約束を実現できるかというと疑問が残る。オバマの医療改革案も、「皆保険」だとは宣伝されているが、実際には皆保険の「可能性」止まりだ。

New RepublicのJonathan Cohnも、オバマの今回の判断には、大統領としての資質(Cohnの評価はmix)が垣間見えると述べる(Cohn, Jonathan, "Wading Pool", New Republic, May 31, 2007)。オバマの判断には中間層の反感を買いたくないという計算があったのかもしれない。しかし、州の改革に見られるように、「義務付」はもはやタブーではなく、むしろ「個人の責任」という要素が加わるために、保守派の賛同も得やすくなる可能性がある。それに、約束するだけでは「皆保険」には届かないかもしれない。そろりそろりとプールに入るのではなく、思い切って飛び込むべきではなかったか。

実は民主党陣営には、候補者は詳細な医療保険改革案を示すべきではないという議論があった(Schmidt, Mark, "Presidential Health Care Plans", New Republic, May 21, 2007)。医療保険改革は、内容が難解な上に、難しいトレード・オフが付き物だ。それだけに、詳細なプランを明らかにすれば、必ず敵に攻撃される。まして、大統領になれたとしても、実際の改革案は議会との交渉で決まる。選挙の時に詳細な案を示す意味はない。

さらにオバマの場合には、詳細な案を示すことの問題点がもう一つある(Klein, ibid)。既存のラベルを嫌い、大きな夢のあるテーマを語ってきたのに、詳細な政策論に降りていけば、従来型の議論に引きずり込まれてしまう。夢を夢として語れなくなってしまう。

それでも詳細な案を提示したオバマは、その点では「大胆」といえるのかもしれない。しかし、その内容については、「あと一歩」という評価が目立ってしまう。どの論者もオバマのプランに良いところがないとは言っていない。しかし、キャラクターの議論と重ね合わせると、「あと一歩」なのだ。

Paul Krugmanは、具体的な政策に関する提案こそが、候補者のキャラクターの本質を示す鏡だと指摘する(Krugman, Paul, "Obama in Second Place", New York Times, June 4, 2007)。2000年の大統領選挙でのブッシュの提案を真剣に分析すれば、どんなにいい加減な人物であるかが分かった筈だというのである。ちなみに、オバマの改革案に対するkrugmanの評価も、「あと一歩」だ。

個人的には、今回の「義務付」の問題は政策論として善し悪しを語るべき題材だとは思うが、それはそれで、一つの視点ではある。

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