2007/06/19

オバマのOpposition Researchとオフショアリング

オバマ陣営の「反対候補調査(Opposition Research)」が議論を呼んでいる。ヒラリーとインドのビジネス界との結び付きの強さを批判する文書が流布し、その出所がオバマ陣営であることが、明らかになったのである(Zeleny, Jeff, "A New Kind of Politics Closely Resembles the Old", New York Times, June 16, 2007)。

これが騒ぎになったのは、「新しい政治家」を標榜するオバマ陣営が絡んでいるからだ。反対候補の経歴等を調べ上げるOpposition Research自体は、今時どこの陣営も行なっている。面白そうなネタを流し、マスコミやブロガーに拾われるのを期待するのも、珍しい行為とはいえない。

しかしオバマは、個人攻撃になるような選挙運動はしないと公言している。対立候補との論戦は、あくまでも政策ベースで行なうというのが、「新しい政治家」たるオバマの主張だった(Smith, Ben, "Obama on oppo", Politico, June 15, 2007)。本人のジョークが元ネタだとはいえ、ヒラリーを「(インドの)パンジャーブ地域選出の民主党議員」と揶揄する今回の文書は、とても政策論争が狙いだとは言い難い。

オバマだけに高いスタンダードを適用するのはおかしいという意見もある。しかしオバマは、「新しい政治家」であることを最大の売りにしている。高いハードルは、自らが選んだ代償だと見るべきだろう。

思い起こされるのは、2004年の大統領選挙におけるエドワーズの戦い方である。この選挙でエドワーズは、「前向きな選挙」を掲げ、対立候補の攻撃はしないと公約していた。その結果、少しでもエドワーズが厳しい発言をすれば、すわ公約破りかと騒がれたものである。ちなみに、当時のエドワーズのアドバイザーは、現在オバマ陣営を仕切っているデビッド・アクセルロードである。

ところで、一連の騒動で見逃せないのは、オバマ陣営の文書が槍玉に上げていた論点が、インドへのオフショアリングだった点である。この文書では、インド企業がニューヨーク州(バッファロー)に雇用を産んだことを引き合いに、「オフショアリングには功罪両面がある」としたヒラリーの発言が批判的に取り上げられている。

今回の文書については、オバマ自らが、先走ったスタッフによる間違った行動だったとして、インド系アメリカ人のコミュニティーに謝罪している(Smith, Ben, "Obama's letter", Politico, June 18, 2007)。オフショアリングについても、「複雑な現象に対する自分の意見が反映されていない」というのが、オバマの説明である(Beaumont, Thomas, "Obama: Campaign's 'Punjab' remark was 'stupid'", The Des Moines Register, June 18, 2007)。

しかし、オバマ陣営の最初の抗弁のように、今回の文書が「政策」、即ちオフショアリングでの立場の違いに焦点を当てるものだったとしたら、どうだろうか(Kornblut, Anne E., "With Opposition Research, Tone Is Revealing", Washington Post, June 16, 2007)。オバマはオフショアリングに反対する立場から、ヒラリーに対峙しようとしていたのだろうか?その線からオバマに攻められたら、ヒラリーはどう反論していただろうか?

今回の騒動は、オバマの「高いスタンダード」に引き寄せて語られる側面が大きい。しかしその陰には、これからの選挙戦の過程で、グローバリゼーションを巡る議論が、思わぬ方向に転がっていくリスクが示唆されているような気がしてならない。

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