2007/06/26

Paris Hilton vs. Dick Cheney

米国のメディアは、どこを見てもパリス・ヒルトン一色である。無理もない。政治の分野では、ニュースのネタがちょっとした夏枯れ状態なのである。

ワシントンでは、ブッシュ政権のレイム・ダック化が進んでいるだけでなく、民主党議会も思うように成果を上げられていない。典型的な膠着状態である。独立記念日の休会が近いから、例年ならば議会審議が山場を迎える時期だが、今年の場合は、移民法改革の復活が辛うじて議論になっているくらいである。考えてみれば、最大の争点であるイラク戦争を、取り敢えず9月まで先送りしてしまったのだ。盛り上がらないのも仕方がない。

とはいえ、大統領候補も一通りの紹介は終わっている。世論調査の構図も、基本的には変わらない。第2四半期の献金額発表や、独立記念日周辺のトンプソン正式出馬までは、これといったニュースがない。それどころか、こうした折角のネタでさえ、メディアは先食いしてしまっている。献金額は、エドワーズとマケインの生き残りが問われる結果になる。トンプソンの人気には、実績が伴わないのではないか?

そうなってくると、メディアが先食いできるネタは限られてくる。その一つは、まだ任期が残っているにもかかわらず、ブッシュ政権の総括を始めてしまうことである。そう思っていた矢先に始まったのが、Washington Postのチェイニー副大統領の大特集である。史上最強の副大統領が、どうやってその権力を行使してきたのか。力の入った企画である。

チェイニーは、ブッシュ政権の大きな謎である。本人が秘密主義だというだけではない。そもそも就任前のチェイニーには、ここまで「危険物」扱いされる可能性が指摘されていただろうか。何せ、リベラル派のコラムニストであるEugene Robinsonには、「ブッシュ大統領の弾劾を求めないのは、チェイニー大統領の誕生だけは避けたいからだ」なんて書かれている(Robinson, Eugene, "'Angler' For Power", Washington Post, June 26, 2007)。特集の本文を読む余裕がないので、写真だけを見ていたのだが、これまでの「輝かしい」経歴や、家族人としての顔を見るにつけ、不思議な感覚に襲われる。

Washington Postには、いかにチェイニーを退陣させるかが、こともあろうに共和党の中で大きな関心事になっているというコラムが掲載されている(Quinn, Sally, "A GOP Plan To Oust Cheney", Washington Post, June 26, 2007)。このままではチェイニーは、来年の選挙で共和党のお荷物になる。ゴールドウォーターがニクソンに退陣を迫ったように、ワーナー上院議員辺りが働き掛けたらどうか。そして、大統領選挙で勝てそうな候補を副大統領に据えるべきだ。

その「勝てそうな候補」というのがトンプソンだというのはさておき、こうしたシナリオに無理があるのは当然である。大統領が指名する副大統領候補は、議会の承認が必要である。次の選挙に野心がある人間を、民主党議会が簡単に認めるだろうか。ニクソンがアグニューの後任にフォードを指名した時には、議会との綿密な下調整があった。フォードの場合は、ニクソンが消えた場合の大統領就任含みだった訳だが、今回にしても同じ様な重みがある。

もっとも、そんなシナリオの実現可能性よりも、驚かされるのは、こんなコラムが掲載されてしまうという状況である。問題のコラムは、チェイニーは夏にペースメーカーのバッテリー交換手術があるから、医師の勧告で辞めるという、格好の口実ができると指摘する。そこまで書かれてしまう。それが今のチェイニーなのだろうか…

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