2007/05/30

ヒラリーの経済演説:What has been said, or unsaid.

29日にヒラリーが、経済政策に関する演説を行なった。同じ日にオバマが行なった医療保険に関する演説の陰に隠れがちだが(余談だが、こちらのプレスリリースにも、脚注が65もついている。なかなかどうして、ヒラリーに負けていない)、「富の配分」を論じたこの演説は、まさにルービノミクス論争に拘る内容であり、見逃す訳にはいかない。

ヒラリーは、成長の果実が中間層に配分されていないという問題意識から、以下の9つの提案を行なった。

1.大企業への優遇策を減らし、国民との公平を実現する。
2.企業に対するオフショアリングへの政策的なインセンティブを廃止する(税制改革)。
3.企業や金融セクターのガバナンスを改革する。
4.健全財政を回復する。
5.全ての若者に大学教育の機会を与え、教育が幼少期に始まり、大人になるまで続くようにする。
6.コミュニティー・カレッジなど、様々な教育の機会を支援する。
7.労働者が家族を養えるだけの収入を獲得し、将来に備えた貯蓄が出来るように、支援する。
8.全ての米国人が、質が高く、手頃な医療保険に加入出来るようにする。
9.新しい雇用を産みだすために投資を行なう。

まず感じたのは、なぜ9つの提案なのか?という疑問である。

だってキリが悪いじゃないですか。ちょっと工夫すれば、8にも10にも簡単に出来そうなのに。それとも、世論調査に裏付けられた深い計算があるのだろうか。

それはさておき。

ルービノミクス論争の観点では、演説のなかに、ポピュリスト=EPI陣営を意識したキーワードがちりばめられていることに気付く。

例えば、リリースのタイトルには、EPIのプロジェクトを思わせるSHARED PROSPERITYがあるし、ブッシュ政権の経済政策を批判する下りでは、これもEPIの十八番である"on Your own"を使っている。内容的にも、CEOの高給批判や、労組・製造業の重視等が盛り込まれた。

もっとも、「クリントン」という名前に付随する一種のハンデを考えれば、意識的に左に動くのは自然かもしれない。実際に、ルービノミクスの範疇を大きく踏み越えているかというと、そういう訳でもない。ヒラリーは均衡財政を主張したし、「最高税率をブッシュ前に戻す」というのは、ルービンも許容していた「想定内」の提案である。

何よりも印象的なのは、通商政策に対する言及の欠如だ。財政と比較すれば、通商はポピュリズム派の旗色は良い分野であり、ヒラリーの揺らぎも指摘されている。

敢えて今回は取り上げなかったのは、「配分と通商の因果関係は薄い」というメイン・ストリームの考えに従ったからだろうか。それとも、どこかで通商に関する大きな演説が予定されているのだろううか。

演説を読み終えて残ったのは、そんな疑問である。

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