2007/05/16

ヒラリーはそんなに嫌いですか?

いくら世論がバックにあっても、イラクだけでは民主党は選挙に勝てないかもしれない。少し前に取り上げた議会民主党の事情もさることながら、大統領選挙についても、民主党には楽観できない要因がある。特に問題含みなのがヒラリーである。

その予兆は、世論調査をみれば一目瞭然である。現時点の世論調査では、ヒラリーやオバマは、必ずしもジュリアーニやマケインを大きく引き離してはいないのである。

5月15日時点のReal Clear Politicsが集計した世論調査をみると、ヒラリーの場合、足下で支持率は伸びているものの、平均ではジュリアーニにはやや負けている。マケインに対するリードも2%である。オバマについては、対ジュリアーニで3.4%、マケインで4.9%とやや広がるが、圧倒的というほどではない。

驚くのは、エドワーズがやけに強いことと(ジュリアーニを4%、マケインを8.8%リード)、ロムニーがやけに弱いこと(ヒラリーに14%、オバマに23%、エドワーズに27.3%リードされている)ことだが、それはそれとして。

現職の共和党大統領は著しく不人気である。なにせ、最近の支持率の平均は34.2%である。なかでもイラク政策への支持は低い。そのイラク政策に関しては、民主党候補はブッシュ批判、共和党候補はブッシュ支持でまとまっている。その分の「底上げ」はある筈だ。

まして具体的な候補者名を上げない世論調査では、大統領には民主党の候補になってもらいたいという意見が多い。4月26~30日のDIAGEO/Hotlineによる世論調査によれば、実名をあげない質問では、民主党の候補に投票するという回答が47%、共和党の候補者という回答が28%。両者の差は19%もある。

なぜ実名を上げると差が縮まるのか。有権者はブッシュにもイラク戦争にもうんざりしており、イメージとしては民主党になびいている。しかし、いざ実際の候補者を前にすると、二の足を踏んでしまうということなのだろうか。

イラク戦争が、「共和党の戦争」ではなく、「ブッシュの戦争」として整理されてしまった時。言い換えれば、「上げ底」がなくなった局面を、民主党の候補者はシュミレーションしておいた方が良いのかもしれない。

ここで気になるのが、ヒラリーの好感度の低さである。先のDIAGEO/Hotlineの世論調査では、ヒラリーを「極めて好ましくない」とする回答が29%を占めた。さすがにブッシュ(49%!)には及ばないが、ジュリアーニ(16%)やマケイン(14%)より遥かに高い。また、とくに目立つのは、共和党支持者の反感の強さである。共和党の支持者では、ヒラリーを「極めて好ましくない」とする割合が59%を記録している。これはペロシ(49%)よりも高い数字であり、民主党支持者のジュリアーニ(22%)、マケイン(22%)に対する拒否感とは比べ物にならない。無党派層でも、ヒラリーの数字(27%)は、ジュリアーニ(16%)、マケイン(15%)を上回っている。

ヒラリーにとって悩ましいのは、政策面での強さが、選挙の面での評価につながっていないことである。DIAGEO/Hotlineの調査では、政策分野ごとにどの候補者がもっとも頼りになるかを聞いている。ヒラリーは、経済(30%)、環境(28%)、医療(40%)で、民主党・共和党のいずれの候補をも上回る支持を集めている。イラク(19%)とテロ対策(21%)でも、前者はマケイン(20%)、後者はジュリアーニ(25%)に続く第二位だ。唯一民主党候補の後塵を拝したのは腐敗問題(16%)だが、ジュリアーニ(18%)、オバマ(17%)との差はさほどでもない。ヒラリーが政策に強いことは、有権者もわかっている。それでも好感度の低さは残っており、共和党候補者との相性も芳しくないのである。

さらに言えば、強みが弱みに変わる可能性すらある。

政策面でのヒラリーの強さは、彼女の経験に裏打ちされている。しかし、歴史は「経験者」に厳しい。Time誌のJoe Kleinが指摘する通り、JFK以降のテレビ時代の大統領選挙で、勝利政党が変わった5回の選挙のうち、実に4回は経験の浅い候補の方が勝っている(Klein, Joe, "Hillary's Quandary on the Campaign", The Time, May. 10, 2007)。残りの1回(68年のニクソン―ハンフリー)も、両者の経験は拮抗していたという。変化を求める有権者の声は、新顔への追い風になりやすいのかもしれない。

ヒラリーが勝てば、クリントン・ブッシュの大統領が四半世紀近く続くことになる。有権者に「それでも」と思わせる魅力を、ヒラリーは発揮しなければならないのである。

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