2007/05/09

Iraq : The Only Game in Town

何でイラクの話ばかりなんだ?というご意見もおありかと思う。なぜロムニーのタグが1で、イラクは18もあるのか?

敢えてその理由をあげるならば、今の米国には、それ以外の論点が付け入る余地がほとんどないからである。好むと好まざるにかかわらず、イラクはThe Only Game in Townなのだ。

とはいえ、いずれの政党にしても、イラクの問題に没頭していさえいれば、08年の選挙に勝てるというほど話は単純ではない。折しも民主党は、補正予算を巡って、ブッシュ政権を追い詰めようとしている。それは「勝利への一手」になるのだろうか。

下院民主党は、新たな補正予算への投票を、10日にも行なう方向になった。内容を整理すると、次のようになる(Higa, Liriel and John M. Donnelly, "House to Vote on Short-Term War Bill", CQ Today, May 9, 2007)。

①956億ドルの戦費のうち、428億ドルの歳出を認める。だいたい2~3ヶ月分である。
②残りの528億ドルについては7月23~24日に改めてその是非を採決する。
③2回目の採決に先立って、528億ドルは180日以内に米軍を撤退させるためだけに使うという修正条項を審議する。
④7月13日までにブッシュ政権は、議会に対して、イラク政府が一定のベンチ・マークを満たしたかどうかを報告する。

一言でいえば、大統領に拒否権は発動されたが、あくまでも白紙委任状は渡さないという意思表示である。

下院案には、政権のみならず、上院民主党も乗り気ではないといわれる(DeYoung, Karen and Jonathan Weisman, "House Bill Ties War Funding to Iraq Benchmarks", Washington Post, May 9, 2007)。従って、このままの内容で補正予算が決着するとは限らない。

ただし、ハッキリしたのは、暫くはイラクがOnly Game in Townであり続けることだ。

イラクにかかりきりになるのは、民主党にとって必ずしも好ましい展開ではない。確かにイラク問題では、世論は民主党の側にある。しかし、議会の仕事はイラクだけではない。民主党が08年に多数党を守るには、多数党としての目に見える成果が必要である。下院勝利の立役者であるエマニュエル下院議員は、「有権者は変化のために投票した。しかし、イラク、経済、ワシントンの腐敗対策は、どれも同じ位重要だ」と指摘する(Weisman, Jonathan and Lyndsey Layton, "Democrats' Momentum Is Stalling", Washington Post, May 5, 2007)。ところが、イラクに忙殺されればされるほど、政権との対立が深まれば深まるほど、それ以外の分野で成果をあげるのは難しくなる。

意外に見逃せないのは、民主党がイラク問題で党をまとめるための票勘定である。例えば下院民主党は、中米諸国とのFTAといった通商問題の分野で、政権との合意を狙っている。そのためには、労組にある程度譲ってもらわなければならない。しかし、民主党指導部がここで労組に「貸し」を作れば、イラクでは労組に強く出られなくなる。労組といえば、AFL-CIOSEIUも反戦の立場。どちらで譲ってどちらで譲ってもらうのか。民主党指導部の計算は単純ではない。

民主党にとって、08年の選挙は決して簡単な戦いではない。何といっても、06年には追い風が吹いていた。今の民主党下院議員には、04年にブッシュが勝った選挙区の議員が61人もいる。対する共和党は、ケリーが勝った選挙区には8人しかいない。

まして、いくら民主党が「ブッシュの戦争」を批判しても、08年の選挙では共和党にはブッシュに代わる新しい顔がある。今のブッシュの支持率を考えれば、共和党サイドに、「新しい顔(大統領候補)」は、必ずブッシュよりも人気がある」との期待があるのも無理はない。共和党のプライス下院議員などは、「私たちは必ずしも何をやったかで定義されるわけではなく、何よりも、私たちの大統領候補が私たちの評価を決めるだろう」と述べている(Eilperin, Juliet and Michael Grunwald, "A New Pitchman -- and a New Pitch", Washington Post, May 9, 2007)。

もちろん08年も、イラクがOnly Gameであり続けるかもしれない。既に米軍は、3万5千人の兵士を8月に交代要員としてイラクに送る方針を決めている(Tyson, Ann Scott,"Commanders in Iraq See 'Surge' Into '08", Washington Post, May 9, 2007)。増派の水準を来年まで維持する用意は着々と進んでいる。また、民主党にしても、次の選挙も「ブッシュ政権への信任投票」にしようと狙っているのが現実である。エマニュエル下院議員は、「すべての大統領選挙の年は、現職への信任投票だ」と強気である(Eilperin et al, ibid)。

しかし、いずれイラクがOnly Gameでなくなったらどうだろう。もっと言えば、Only Game in Town(=ワシントン)ではあっても、Only Game in Americaではなくなる可能性はないだろうか?クリントン政権で首席補佐官をつとめたレオン・パネッタは、「何らかの理由で国内政策を進められなければ、民主党はその代償を支払うことになるだろう」と警告する(Weisman, ibid)。

議会だけではない。イラクが切り札になるとは限らないのは、民主党の大統領候補も同じである。その不吉な予兆は、既に世論調査に現れている。

本当はこちらが今日の本題だったのだが、少々長くなったので、日を改めることにしたい。

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