2007/05/22

労組の「妙な存在感」とエドワーズの命運

民主党の議会多数党奪回もあってか、最近の米国で妙な(失礼)存在感を示しているのが労働組合である。

例えば議会では、カード・チェック法案(労組設立の手続きを、社員による秘密投票ではなく、過半数の署名で可とする)が審議されている。また、通商政策やイラク政策を巡る議論でも、労組の発言は活発である。さらに、サーベラスのクライスラー買収では、レガシー・コストに関する労組の出方が焦点になっている。

市場原理の権化という印象のある米国において、労組にこれほどの存在感があるということには、奇異な感じを受ける人も少なくないだろう。実際のところ、06年における米国の労組加入率は12%に過ぎない。83年の20%と比較しても、随分な低下である。

そんな労組も、時代に応じて変化はしているようだ。クライスラー買収へのリアクションに見られるように、ビッグ3のレガシー・コスト問題では、UAW側も、労働者擁護一辺倒という立場は取らなさそうな雲行きである。むしろ秋口にかけての労使協約改訂交渉は、会社存続の方策を探る場になるとの観測もある。「交渉のテーブルに良いオプションなどない。最悪かよりましな選択肢だけだ(Clark UniversityのGary N. Chaison教授)」というの現実を、労組もそれなりに受け止めているように見受けられる。(Maynard, Micheline and Nick Bunkley, "Auto Union Leader Finds Comfort Level", New York Times, May 16, 2007)。

かと思えば、グローバリゼーションを視野に、海外に活動を広げる動きもある。つい最近も、SEIUやチームスターの代表が中国を訪れ、現地の労組関係者等と会合を行なった。その背景には、競争相手国における労働条件の引き上げが、米国の雇用者の雇用や賃金を守ることにつながるという考えがある。「われわれは遅れている。ニクソンは71年に中国に来たが、われわれは2007年になってようやくやってきたのだ(Change to WinのExecutive Director、Greg Tarpinian)」というのは、なかなか泣かせる台詞である(Barboza, David, "Putting Aside His Past Criticisms, Teamsters' Chief Is on Mission to China", New York Times, May 19, 2007)。

実際に米国では、近年の所得格差の拡大の一因を、労組の影響力低下に求める議論がある。大統領選挙に向けて、労組を重要な支持基盤とする民主党陣営からは、こうした議論が盛んに聞かれるようになるかもしれない。

民主党の候補者のなかでも、特に労組を意識しているのがエドワーズである。エドワーズのアプローチは、キャンペーンの主要テーマである貧困問題に関連付けて、労組の復権を重視しているという点で、他の候補とはひと味違う(Easton, Nina, "John Edwards: Union man", Fortune, May 7, 2007)。3月28日に行われたAFL-CIO関連の会合でも、ありきたりの労組擁護論を展開した多くの民主党候補者(オバマを含む)を尻目に、ダントツの人気を博したという(Plumer, Bradford, "Building Code", New Republic, March 29, 2007)。

エドワーズには計算がある。エドワーズの選挙戦略は、予備選序盤で高成績を収め、その勢いでトップ争いに食い込むというものだ。そして、早めに予備選を行なう州の中には、アイオワ、ネバダといった、労組の影響力が強い州が含まれている(Przybyla, Heidi, "Edwards Bets on Union Support to Grab Momentum in Eary Races", Bloomberg, April 9, 2007)。

もっとも、エドワーズの労組重視戦略には死角もある。二点を指摘したい。

まず、労組が明確にエドワーズ支持を打ち出すとは限らない。理由は二つ。第一に、労組は勝馬に乗りたいと考えている。前回の大統領選挙では、負け馬の側に立ってしまい、その後の影響力低下につながったからだ。04年の選挙では、AFL-CIO系の労組はゲッパートびいきといわれた。他方で、SEIU等はディーンを支持した。今回の選挙では、労組は「誰でも良いから、勝てそうな候補につく(Washington University in St.LouisのJim Davis氏)」といわれる所以である(Przybyla, ibid)。

第二に、今回の民主党候補者は、いずれも労組との関係は悪くない(Rosenberg, Stuart, "The Media Shouldn’t Ignore Organized Labor in the Democratic Race", Roll Call, May 7, 2007)。特にヒラリーは、前述のAFL-CIOの会合でも、政策通なところを見せつけて(いかにも…)、エドワーズに負けない喝采を浴びたという(Plumer, ibid)。

また、04年の例を見ればわかる通り、労組に近い路線を取れば、予備選に勝てるというわけではない。選挙評論家のStuart Rothenbergは、労組・階級闘争路線に傾斜するエドワーズは、04年のゲッパートやディーンに似てきていると指摘する。ディーンを髣髴とさせる強硬な反戦の立場を含め、「怒りと対決姿勢、労組の支持があれば十分だとは限らない」というのが、彼の見立てである(Rosenberg, Stuart, "Is Edwards Following the Dean and Gephardt Models Too Closely?", Roll Call, May 14, 2007)。

ところで、エドワーズといえば、「二つのアメリカ」。労組向けの演説で、最新バージョンを見つけた(Goldfarb, Zachary A., "Democratic Candidates Praise Value of Organized Labor", Washington Post, March 27, 2007)。

"Somewhere in America, a dad will come home from working the second shift. He'll walk into the bedroom of his 6-year-old child and he'll touch her head and he'll realize for the first time that she has a fever, that she's badly sick. And he knows he needs to take her to the doctor, he knows he needs to go to the hospital, to the emergency room, but he has no idea how he's going to pay for it."

And he continued, "Today, somewhere in this country, a mother will stand in her kitchen holding a dish towel. . . . she'll go to the door, and she will find a chaplain and a man in uniform with the name of her son on their lips . . ."

こうした芸が、労組を超えて共鳴するかどうかが、エドワーズの勝負である。

それにしても。いやはや、相変わらず美しいではないですか。

0 件のコメント: