2007/05/29

Not Running is New Running : トンプソンとゴア(は次回...)

米国の大統領選挙では、「立候補していない候補者」が、ちょっとしたブームである。共和党のギングリッチ元下院議長や、第三政党での出馬の噂があるブルームバーグNY市長もさることながら、何といってもメディアの注目度が高いのは、共和党のフレッド・トンプソン元上院議員と、民主党のゴア前副大統領(自称元次期大統領)である。

もっとも、この二人には重要な違いがある。一人は出馬すると思われており、もう一人は思われていない。

出馬すると思われているのはトンプソンである。組織を立ち上げ始め、スタッフを雇い、議会を訪ねたり、保守派の会合で演説もした。特筆すべきは、インターネットの活用で、保守系の有力ブログに投稿したり、先日はYouTube経由でマイケル・ムーアに喧嘩を売って話題を集めたり(必見。葉巻咥えて出て来るんだもんなあ。さすが役者です)。AP通信が、「...彼に近い人は、まだ最終的な決断は下されていないと警告する。基本的には彼が既に選挙運動を始めてしまっているのはさておいて」と書くのも無理はない("Many signs point to a Fred Thompson presidential candidacy", Los Angels Times, May 23, 2007)。

トンプソンにとっては、出馬を表明していないことが有利に働いている。二つの視点がある。

第一に目立つ。共和党の予備選は乱戦模様。ビッグ3の後ろでも、大量の候補者がスポットライトを奪いあっている。討論会を見てもわかるように、この中で競うのはあまり楽しくない。幸いなことに、トンプソンにはLaw &Orderで築いた知名度があるから、インターネットで自由に飛び回っていた方が快適である。

第二は、その自由度だ。トンプソンは何のコミットもしていないから、比較的自由に発言できる。それが、既成の候補に飽きたらない保守層の琴線に触れる。

「家をもっていれば銃をもつ権利があるべきじゃないか?大学が軍隊の歴史を教えないのは良くないよね。サルコジはどうだい?いいニュースだね。テネットをみたかい?あいつの本は薄っぺらそうだね」。

保守派の論客Peggy Noonanは、こうした点を評して「トンプソンは素晴らしいキャンペーンを展開している。ただ宣言していないだけだ」と述べている(Noonan, Peggy, "The Man Who Wasn't There", Opinion Journal, May 18, 2007)。

トンプソンの「出馬」がどの候補にとってダメージになるかは、意見がわかれるところだろう。世論調査を見る限り、ビッグ3から一人落ちるならロムニーだし、政策的にはマケインとダブる。

しかし、「救世主が彗星のように現れる」という役回りをとって変わられたのは、ジュリアーニではないだろうか。このページを始める随分前に、某所で「両党には出馬したら戦況を一変させかねない潜在的な候補者がいる」と指摘したことがある。想定していたのは、民主党はゴアだったが、共和党はジュリアーニだった。

常識的に考えれば、ジュリアーニが共和党の指名を勝ち取るのは容易ではない。同性愛者や中絶の権利を認め、銃規制には消極的。社会保守派にとっては、余りに厳しい選択である。しかし、このままでは本選挙に勝てないという危機感が高まれば、保守派も苦い薬を飲む気になるかもしれない。その時が、ジュリアーニのチャンスである。そんな筋書きだった。

筋書きは間違ってはいなかった。しかし、ジュリアーニにとっては、危機感の高まりは早すぎたかもしれない。今やジュリアーニは立派なトップランナー。しかし、今度は「真の保守がいない」という不満がくすぶっている。それが、右側からの「彗星」が産まれる素地になった。

もっとも、トンプソンがどこまで「右」なのか、何を主張する候補者なのかは、未だに判然としない。むしろ、政策や気質に関する曖昧な評価は、前回取り上げた時と、あまり変わりがないようにも見受けられる(Halperin, Mark, "Has Fred Thompson Found His Role?", Time, May 24, 2007)。

「レーガンに似ている(Halperin, ibid)」というだけでは物足りない。Peggy Noonanはいう。「トンプソンは次のような問いに答えなければならない。何をするために出馬するのか。これまでの間違いにもかかわらず、なぜ共和党はもう8年間(もしくは4年間)を与えられるべきなのか。保守主義や共和党主義(どう呼んでもいいが)は使い尽くされてしまったのではないのか。アメリカは何でもいいからとってかわるものを待っているのではないのか?(Noonan, ibid)」

彗星の尾が何で出来ているかはご存じの通り。トンプソンの輝きは本物なのか。見極めるには、しばし時間が必要かもしれない。

ゴアに触れる気力がなくなってしまった。オゾン・マンには申し訳ないが(?)、また別の機会に...

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