2007/05/21

米中戦略経済対話とブラックストーン:It could have been worse

22~23日に米中戦略対話が行われる。昨年12月の前回会合と比べると、両国の関係は難しくなっているといわれる。それでも、米側の反中感情は、上手くコントロールされてきた方ではないだろうか。

そう、もっとひどい事にだってなっていたかもしれないのだ。

そう考えるのは、議会に極端な動きが見られないからである。民主党議会の誕生という状況に鑑みれば、いずれは何らかの対中法案が可決されるだろう。ただし、今議論されている法案の多くは、数年前からくすぶってきた古顔である。今から思えば、シューマー・グラム法案ですら、良く振りつけられたやり取りだったように思える。

議会がイラクで手一杯だというのは別にして、米中関係が過激な対立に至らないでいる理由の一つは、月並みだが、両国経済の関係が密接になったことだろう。利害関係が複雑になれば、保護主義の勢いは鈍る。

例によって中国政府は、交渉前のお土産攻勢に出ている(Cha, Ariana Eunjung, "China, U.S. Come to Trade Talks At Odds", Washington Post, May 19, 2007)。18日に発表された人民元の変動幅拡大(0.3→0.5%)や、43億ドルといわれるハイテク製品のディールといったusual suspectsはともかく、オャッと思わせられたのが、投資会社大手のブラックストーン社への資本参加である。

3月20日に中国政府は、中国が新設する外貨準備の運用会社が、ブラックストーン社に30億ドルの出資を行なうと発表した(Linebaugh, Kate, Henny Sender and Andrew Batson, "China Puts Cash to Work in Deal with Blackstone", Wall Street Journal, May 21, 2007)。出資は議決権のない株式の購入として行われる。株式保有比率が1割以下に抑えられるために、米当局の認可は不要だという。中東諸国のように、外国政府が米国の投資ファンドに参加するのは珍しくないが、今回のような投資会社本体への出資は前例がないという。

中国政府にとっては、巧みなディールということになるのだろう。第一に、米国債を偏重したポートフォリオを変更できる。第二に、外貨準備を米国に還流させるルートは残した。第三に、直接的に米国の会社を買う訳ではないので、CNOOCの時のような反発は受けにくいともいわれる。

また、投資会社と関係を結ぶことで、米国内への政治的な目配りも強くなるだろう。ブラックストーンにしても、今後の中国展開には大きなアドバンテージを得ると同時に、利害関係が深まるきっかけになる。

ちなみに、ブラックストーン社の創始者は、ピーターソン元商務長官。バーグステン所長を擁する国際経済研究所(IIE)の後ろ盾である。

ま、だから何だというわけではないが。

もちろん、利害関係が深まれば、摩擦の芽も増える。保護主義への防波堤は高くなるが、外側の波も高くなる。結局のところ、ポイントは議会だ。どうも中国政府はそこのところが理解し切れないらしく、米国の議員が地元工場の命運などという問題にこだわるのを不思議に思っているという。「たかが200人くらいの失業に過ぎないのに」「上院議員は自分が大統領のように思っているし、下院議員は少なくとも副大統領だとは思っている」なんていうコメントも引用されている(Cha, ibid)。

しかしそこに得心がいかなければ、保護主義のコントロールという、ポールソンの課題も見えにくい。

バーナンキやキッシンジャーが講演して済むくらいであれば大したことではないが、急な天候の変化には注意が必要だろう。

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