民主党を悩ます「もう一つの戦い」
といっても、イランの話ではない。「大統領予備選」というもう一つの戦いを巡る民主党候補者達の計算が、議会民主党とブッシュ政権のイラク戦費を巡る攻防をややこしくし始めた。
口火を切ったのは、ヒラリーである。ヒラリーは、イラク戦争の開戦に当たって議会が政権に与えた戦争権限を、その付与から5周年となる今年の10月11日を持って、一旦剥奪するとの提案を明らかにした(Zeleny, Jeff and Carl Hulse, "Democrats’ Proposals Complicate Deal on Iraq Bill", New York Times, May 6, 2007)。このプランでは、政権は改めて議会に戦争続行の許可を求めなくてはならず、議会はその機会に政権の行動に条件をつけられる。ヒラリーは、開戦に賛成したことを「間違っていた」と認めておらず、党内の反戦派に批判されていた。今回の動きは、こうした批判への一つの回答とみてよいだろう。
ちょっと横道にそれるが、最近の民主党では、ヒラリーのようにかつては開戦を支持した政治家が、むしろ戦争に厳しい態度をとる傾向がある。大統領候補では、今や反戦派の旗頭ともいえるエドワーズも、開戦には賛成した口だし、議員のなかでは、「この戦争にはすでに負けている」と発言して物議を醸したリード上院院内総務が典型である。一方で、オバマ上院議員やレビン上院議員のように、いぜんから戦争を批判していた政治家は、それほど態度を変えておらず、ちょっとした逆転現象が起きている。この点については、当初開戦に賛成した民主党の政治家は、自分の信念をいったん曲げてしまったにもかかわらず、あまりにその結果が重大だったために、その反動で厳しい態度にでているという解説もあるようだ(Fairbanks, Eve, "Trading Places", The New Republic, April 30, 2007)。
ヒラリーの提案を受けて、他の候補も、負けじと強気の要請を繰り出している。反戦気運は、民主党が昨年の中間選挙で勝利を納めた大きな要因である。その勢いをどう生かすかは、民主党の候補者にとって重要な課題なのである。
なかでも重大な決断を迫られるのは、オバマだという意見がある。オバマはそもそも開戦に反対していたという事実を強調している。しかし、それはオバマが上院議員になる前の話である。むしろ上院議員としてのオバマは、それほど過激な反戦論は展開していない。
Dick Morrisは、オバマが考えなければならないのは、反戦の主張を強めるエドワーズのスタンスだと指摘する(Morris, Dick, "Obama’s moment of truth", The Hill, May 2, 2007)。オバマが反戦の立場を明確にしなければ、エドワーズは党内反戦派の支持を一身に集められる。一方でオバマは、中道派の票をヒラリーと分け合わなければならなくなる。このケースでは、大統領に近付くのはエドワーズだ。しかし、ここでオバマが反戦の立場を鮮明にすれば、それ以外に「売り」のないエドワーズの選挙戦を立ち行かなくさせられるというのである。
候補者達の08年を睨んだ計算は、リアル・タイムでブッシュ政権と渡り合わなくてはならない議会民主党にとっては、いささか迷惑である。議会民主党の戦略は、民主党の団結を維持しながら、共和党の分裂を促し、大統領を孤立させることだ()。例えば、現在進行中の補正予算を巡る議論では、党内を割らずに、それでも共和党の中道派を惹きつけられるような、微妙な「譲歩」が必要とされる。
党内の反戦派も、これまではこうした大方針を支持してきた。現時点では、反戦派はAmericans Against Escalation in Iraqというグループに大同団結し、上下両院の民主党指導部と連携をとっている(Luo, Michael, "Antiwar Groups Use New Clout to Influence Democrats on Iraq", New York Times, April 6, 2007)。5月2日に下院で行われた補正予算(H.R.1591)への大統領拒否権を覆すための投票は、賛成222票-反対203票で、必要な3分の2の賛同は得られなかった。しかし、民主党からの離反議員は7人に過ぎず、その内反戦派は僅かに1議員を数えるだけであった(ちなみに共和党の離反議員は2議員)。
もっとも、党内の反戦派が現状に満足している訳ではない。反戦派も大別すれば、二つの種類に分かれる。民主党のホワイトハウス奪回を優先するグループと、戦争の早期集結を重視するグループだ。前者に比べて、後者のグループは、妥協に対する許容度が低い。大統領選挙を睨んだ候補者の動きは、こうしたグループを勢いづかせかる可能性がある。
ちょっとした皮肉は、補正予算に関する共和党との橋渡し役を、バイ上院議員が演じていることである(Murray, Shailagh and Jonathan Weisman, "Clinton Changes Tone on Iraq", Washington Post, May 4, 2007)。バイ議員は、大統領選挙から早々に離脱した経緯がある。言い換えれば、どちらの立場にもなり得た議員なのだ。果たしてバイ議員は、「こちら側」と「あちら側」の違いを、どんな思いでかみ締めているのだろうか。
民主党は、イラク戦争を巡るブッシュ政権との「対峙」を3つのステージとして捉えている。第一段階が現在の補正予算。第二段階は国防予算の歳出権限(Budget Authority)を巡る議論、そして、最終段階が、08年度の国防予算の審議である。
最終段階の審議は、夏頃に本格化し、ちょうど「増派」の一次評価とも重なってくる。様々な思惑が交錯する一つのクライマックスが、夏から秋にかけて訪れることになりそうだ。
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