2007/05/17

イラク:ベンチ・マークって何だっけ?

通商における下院民主党指導部とブッシュ政権の合意といった動きはあるものの、ワシントンのメイン・ディッシュがイラクであることに変わりはない。大統領選挙についても同様である。

16日に上院は、来年3月までの米軍撤退と、戦費の打ち切りを内容とするリード議員らの提案を、賛成29票-反対67票で否決した(Levey, Noam N., “Votes build in Senate to rein in Bush on Iraq”, Los Angels Times, May 17, 2007)。賛成した議員は、無党派のサンダース議員以外はいずれも民主党議員。共和党からの離反はなかった。

戦費とは直接関係のない法案への修正条項として行われたこの提案への採決は、しばらく前に下院が行なった類似の採決と同様に、そもそも可決の見込みはなかった。思われていたよりも多くの賛成票が投じられた点でも、下院と同様の結果となった。

上院では、昨年夏にケリー議員などが、今年の7月までに米軍を撤退させるという法案を投票にかけたが、民主党議員は13人しか賛成しなかった。3月には、戦費の削減に反対するという拘束力のない決議案に、96人の上院議員が賛成票を投じている。

翻って16日には、イラク政府によるベンチ・マークの達成と、経済支援をリンクさせるという提案に、44人の共和党議員が賛成している。共和党のワーナー議員等によるこの提案に対しては、内容が弱すぎるとして民主党の大半が反対したため、賛成票は52票にとどまり、クローチャーに必要な60票には届かなかった。それでも、共和党上院議員の大半が、ブッシュ政権のイラク政策に条件をつけることに明示的に賛成したのは、これが始めてである。

少しずつだが、議会の状況は動いているわけである。

リード議員らの提案に戻ると、注目されるのは、ヒラリーとオバマが賛成に回ったことだろう(Zeleny, Jeff and Carl Hulse, “Obama and Clinton Back Ending Iraq Combat by March 31”, New York Times, May 16, 2007)。いずれの候補も、ブッシュ政権のイラク政策を批判しながら、戦費打ち切りの是非については、態度を明確にしてこなかった。「兵士を危険に晒す」という批判を嫌っていたからである。

しかし、反戦派の圧力や、ドッド議員などの他の候補者の動きに、二人も応じざるを得なかった。また、二人の関係だけをみれば、どちらかだけを先に行かせる訳にはいかないという力学も働いたと思われる。

候補者の思惑が議会の議論を混乱させると書いたことがあるが、候補者の立場からは、議会での議論が、自らのポジションを左右してしまうという側面もある。

今回の投票に関して言えば、鼻から成立の可能性がなかったので、気軽に投票できたという見方もあるかも知れない。しかし、投票の記録は残る。将来同じ様な投票が行われた時に、仮に態度を変えるのであれば、それなりの説明が必要になる。また、二人がどこまで、似たような投票行動を取り続けるかも、注目されるところである。

大統領候補といえば、共和党のマケイン議員は、またしても棄権した。際どくならなければ投票しないという態度は一貫している。それはそれで、見上げたものである。

さて、今回の投票は多分にシンボリックな意味合いが強いとして、補正予算の鍵を握るのはベンチ・マークの取り扱いである。落としどころはまだ見えていないが、この辺りで、そもそもベンチ・マークとは何なのかを整理しておきたい。

以下は、下院で採択された補正予算(戦費を2回に分割する内容)に含まれた、ベンチ・マークの概要である。出展は下院歳出委員会のプレス・リリースである。

ブッシュ政権は、7月13日までに、議会にイラク政府がベンチ・マークとゴールを達成したかどうかを報告しなければならない。

イラク政府による進展度合いを報告しなければならないのは、次の11項目である。

1.米軍とイラクの保安兵力にすべての過激派を追及する権限を与える

2.必要なだけのイラクの保安兵力をバクダッドに提供し、これを政治的な介入から守る

3.すべてのイラク人を平等に扱うような、バランスのとれた保安兵力を全土に展開させるための努力を強化する

4.イラク保安兵力のメンバーに対して、イラクの政治的権力がこれを貶めたり、誤った非難を行わないように保証する

5.地方の保安兵力に対する民兵の支配を排除する

6.強力な民兵の武装解除プログラムを作成する

7.公平・公正な法の実施を確保する

8.バグダッドの保安計画をサポートする、政治・メディア・経済・サービス委員会を設置する

9.(テロリストおよびその支援者への)「聖域(safe heaven)」を壊滅させる

10.イラクにおける部族間暴力のレベルを低下させる

11.イラク議会における少数派政党の権利が守られることを保証する

同時に、イラク政府が、特定のゴールを達成できたかどうかを報告しなければらない項目には、以下の5つが含まれる。

1.石油からの収入を公平に配分するための石油ガス法(hydro-carbon law)の制定

2.地方選挙を行なうための法律を制定し、その実施に向けたステップを踏み、スケジュールを制定する

3.脱バース化に関する現行法を改正し、個人の公平な取り扱いを可能にする

4.第137条(クルド人地域の自治に関する条項)に則った、イラク憲法の改正

5.復興プロジェクトのための100億ドルの収入を、公平に分配し始める

イラクの専門家ではないので項目の軽重は分からないが、随分たくさんの要求をつきつけたものである。

さて、議会の目標は、今月末までに補正予算を大統領に届けること。月末には、メモリアル・デーの休会がある。このページの読者の皆さんならばご察しの通り、締切にはちゃんと意味があるのである。

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