2007/04/13

イラクとマケイン:Sunny Side To Every Situation?

ブロードウェイの大ヒット・ミュージカル42nd Streetに、Sunny Side To Every Situationという歌がある。

太陽は二度と輝かないかもしれないが、どこかでは晴れた空が広がっている。クルマがガス欠になったら、信号無視だってしないですむ。雨に降られたら、蛙だったらどんなに嬉しいか考えてみるといい。

マケインがブッシュ政権のイラク政策支持の姿勢を改めて強調することには、果たしてSunny Sideはあるのだろうか。マケインは政治的な打算はないというが、外野席からその損得勘定をするのも悪くないだろう。

四つの視点がある。

第一にマケインの先行きは、イラク戦争に左右される度合いが一層強まった。

ブッシュ政権による「増派」が効を奏せば、一貫してこれを支持してきたマケインの立場は劇的に強くなる。特に本選を視野に入れると、反戦の姿勢を競っている民主党候補者に対する優位さは明白である。

もちろん、イラクの泥沼化が続くようであれば、マケインの立場は苦しい。その場合マケインは、早くから増派を主張してきた立場を生かして、ブッシュの対応はtoo little, too lateだったと主張することになるのかもしれない。なにせマケインは、2003年の夏から像派の必要性を主張していたのである。

難しいのはタイミングだ。イラクの今後としては、劇的に好転も悪化もせずに、だらだらと時間だけが過ぎていくというケースが予想される。そのような状況になった場合、「信念の人」を謳うだけに、モードを変える理由をどこに見出すか。

もっとも、イラク状勢が悪くなってこそ、マケインの強さが光ってくるという主張もある。David Brooks(久々の登場ですね)は、やがて中東全体が荒れてくれば、「もっとも本質があり、成熟していて、一貫している候補者の魅力と必要性が高まるはずだ」と指摘している(Brooks, David, "The Fatalist", New York Times, April 12, 2007)。

第二は、共和党支持者との関係である。

有権者の全体感と比較すると、共和党支持者は、ブッシュのイラク政策を擁護する割合が高い。3月14~15日にPew Research Centerが行った世論調査によれば、共和党支持者の59%が、議員に2008年8月を撤退期限とする法案に反対票を投じて欲しいと答えている。無党派層(32%)、民主党支持者(16%)よりも高い数字である。イラクの現状についても、共和党支持者の67%が「上手く行っている」と答えいている。無党派層は36%、民主党支持者は24%だ。「トップランナー」の立場を失ったマケインにとっては、予備選を勝ち抜くのが当面の課題。その意味では、イラク支持は真っ当な選択ともいえる。

問題は、無党派層の回答に示唆されるように、本来マケインの強さだった筈の党派を超えた支持を得難くなること。本選対応では気になるところだ。

もしかすると、マケインの選択を有り難く思っているのは、共和党のライバル候補かもしれない。実は共和党の他の有力候補者も、ブッシュのイラク政策を支持している。共和党支持者との関係では、それ以外の選択は難しい。しかし、マケインが余りに目立っているので、一般的には、それほど強い印象は残っていない。メディアに叩かれるのも、もっぱらマケインだ。

第三はそのメディアとの関係である。

2000年の選挙でマケインは、主流派に対抗する手段として、メディアとの関係を重視した。イラク戦争は、こうした関係を変えるかもしれない。米国の大手メディアは、ブッシュのイラク政策に批判的である。これに対してマケインは、「現地の良いニュースを伝えていない」とメディア批判を繰り広げている。

メディアとの関係が冷却化することには、意外なプラス面があるかもしれない。共和党主流派との関係である。主流派にとって、マケインとメディアの親密さは、2000年の裏切りの象徴だからだ。

第四に、キャラクターの再評価である。

マケイン陣営にすれば、不人気な政策を支持し続けることで、「政治的な計算よりも信念を優先する」というイメージを強調したいところだ。しかし、頑固さが諸刃の剣なのは既に触れた通りである。

かつてマケインは、共和党の「圧倒的なトップランナー」といわれた。障害になるのは、高齢である点だけという見方があったほどだ。しかし、マケインにとって、ホワイトハウスに続く道のりは、当時とは比較にならないほど複雑になった。

果たしてマケインは、42nd Streetのように"tra la la la la la la la"なんて歌える気分でいるのだろうか。

ちなみに、遊説先のマケインの集会で流れていたのは、Tom Petty and the HeartbreakersのI won't Back Downだった。

あまり軽やかな気分とはいえなさそうである。

0 件のコメント: