2007/04/11

イラク補正予算と「ブッシュ流」

ブッシュ大統領のイラク戦費に対する姿勢は、典型的な「ブッシュ流」である。当面の補正予算のステージでは、ブッシュは民主党議会に「勝てる」かもしれないが、共和党は大きな賭けに引きずり込まれようとしている。

4月10日にブッシュ大統領は、補正予算の取り扱いについて、民主党議会に「会合」を呼びかけた。

間違ってはいけない。ブッシュが妥協に動いたわけではない。報道官が認めるように、大統領が呼びかけたのは「交渉」ではない。あくまでも「会合」である(Murray, Brendan and Nicholas Johnston, "Bush Will Seek Meeting With Democrats on War Funds", Bloomberg, April 10, 2007)。それも、「条件なしの補正予算を議論する」という条件がついた会合だ。

大統領はこう述べる。「議会のリーダーは、この会合で補正予算の進捗状況を報告できる。われわれは条件なしの補正予算をどう進めるかについて議論できる」。同時に大統領は、補正予算に撤退期限などの条件をつけようとする民主党議会を、「無責任だ」と厳しく批判した(Branigin, William, "Bush to Discuss War Funding with Congressional Leaders", Washington Post, April 10, 2007)。

こうした手法は、ブッシュ政権の得意とするところである。強い態度で前提条件を設定しておきながら、相手に「会合」を呼びかける。そうすることで、「柔軟なのは自分、妥協を拒むのは相手」というストーリーを作り上げるのだ。公的年金改革で、「個人勘定の導入」を議論の前提としたのが好例である。財政赤字に関する議論でも、常に大前提は「ブッシュ減税の恒久化」である。

Washington PostのDan Froomkinは、補正予算に関するこれまでのストーリーの組み立て方自体が、極めてブッシュ流(カール・ローブ流)だと解説している(Froomkin, Dan, "Blame It on the Democrats", Washington Post, April 4, 2007)。それは、「自分の弱みを、相手の強みとすりかえる」という戦法である。Froomkinによれば、その好例は2004年の大統領選挙における、ベトナム戦争への従軍問題だ。よく知られているように、ブッシュはベトナム戦争に従軍していない。しかしブッシュの支持者は、ベトナムの英雄であるケリーの従軍歴を問題にして、逆にケリーのイメージを失墜させた。

補正予算にも似たような構図がある。ブッシュ政権にとってイラク戦争は弱みのはずだ。現地の状況は芳しくなく、米軍の犠牲が収まらないなかで、世論も政権に批判的だ。しかし政権のストーリーは違う。政権にいわせれば、米軍を危険にさらしているのは、補正予算に難癖をつけている民主党である。民主党が補正予算を認めなければ、交代要員が送れないので、国民が望む兵士の帰還も遅れる。政権の論法では、世論に逆らっているのは民主党なのである。

どうもブッシュ政権には、「行過ぎたレイム・ダック化」ともいうべき現在の苦境を打開するには、その根源であるイラク戦争をきっかけにするしかないというマインドがあるように思われる。そう考えさせられるほど、ブッシュ大統領の対決姿勢は際立っている。メディアには「ブッシュは(民主党との)戦いを望んでいるようだ(Stolberg, Sheryl Gay and Carl Hulse, "Bush Rules Out Bid By Congress For Iraq Pullout", New York Times, March 29, 2007)」「(議会への接し方は)いうことを聞かない幼稚園児をしつけようとする先生のようだ(Brownstein, Ronald, "Bush and Democrats: Enemies who need each other", Los Angels Times, March 28, 2007)」などと評されるほどである。

政権が強気である背景には、いずれ民主党は補正予算の「チキンゲーム」から降りざるを得なくなるという計算もあるだろう。上院の議席数を考えれば、民主党は「拘束力のある撤退期限」を含む法案は通せないだろう。さらにいえば、民主党が降りるとなれば、民主党内ではペロシ下院議長と反戦派の不協和音が強まる。政権とすれば、「ここは攻め時」という判断があってもおかしくはない。

もっともブッシュ政権は、強気の姿勢を突然豹変させて、一気に妥協に落とし込むという業をつかうこともあった。時限減税+段階的導入を受け入れたブッシュ減税の最終局面や、民主党の提案を自分の案のように宣伝した国土安全保障省の創設がそうだった。

一方で、ブッシュ政権が「強気」で勝利を納めれば、それだけ共和党が抱えるリスクは大きくなる。イラク戦争=ブッシュ・共和党の戦争という構図が鮮明になるからだ。とはいえ、ブッシュ大統領はもう選挙に臨むことはない。有権者の審判を受けるのは、政権のスタンスを支持する共和党議員であり、大統領選挙の候補者である。

ちょうど大統領選挙では、イラク戦争でブッシュ支持を明確にしているマケイン候補の不調が注目されている。一時は「圧倒的な有力候補」といわれたマケインも、支持率ではジュリアーニに追いていかれ、献金額ではロムニーにすら遅れをとった。

そのマケインは、今日(11日)予定されている講演で、「イラク戦争に勝つこと」の重要性を改めて訴える。イラク戦争との一蓮托生を選んだマケインの行方を、共和党議員はどのような心持で見守っているのだろうか。

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