2007/04/26

にこやかなBoogeyman : ルービン

Boogeymanという言葉がある。あるグループを攻撃する時に、(理屈はともかく)そのシンボルとして標的に使う人物や物事のことである。民主党の経済戦略を巡る路線対立で、反クリントン派が選んだBoogeymanは、ルービン元財務長官である。

反クリントン派が批判するのは、「ルービノミクス」であって、「クリントノミクス」ではない。ヒラリーの出馬でやや微妙な感じが出てきたとはいえ、クリントン前大統領自身は、今でも民主党の英雄的存在である。路線論争の標的にするには、いささか巨人過ぎる。それよりは、「影の実力者」をBoogeymanに仕立てた方がやりやすい。

実際に、ルービンには標的になるだけの存在感がある。最近でも、ハミルトン・プロジェクトを仕掛けて、ルービノミクスの理論武装と人材育成を進めているのは、既に触れた通りだ。

ルービン批判の典型ともいえるのが、Robert KuttnerがAmerican Pospect誌に寄稿した「友好的な乗っ取り」と題する一文である(Kuttner, Robert, "Friendly Takeover", American Prospect, April 4, 2007)。ここでのルービンは、「国家のため」を装いながら、人脈・金脈・知力を駆使して、ウォール街の利益を推し進める人物として描かれている。

その内容はさておき、興味深いのは、路線論争の構図を垣間見ることが出来る点である。冒頭にこんなエピソードが取り上げられている。04年の大統領選挙で、民主党のケリー候補が、経済政策に関する議論がしたいといって、AFL‐CIO(労働組合)のJohn Sweenyに声をかけた。そこでSweenyがAFL-CIOの政策担当であるChris OwensとEPIのJeff Fauxを連れて出向くと、既にそこには、ルービンが配下(アルトマン元財務次官、スパーリング元大統領補佐官)と共に陣取っていた。さらに、一通りの議論を終えた後に、労組一行がそれとなく退出を促された後も、ルービン組はその場に居残ったという。

ちなみにこの記事の筆者であるRobert Kuttnerは、EPIの共同創始者の一人である。他方で、ルービンが連れていた二人は、ハミルトン・プロジェクトでも重要な役回りを果たしている。そこには、ルービン=ハミルトン・プロジェクトと労組=EPIという対立の構図が浮かび上がる。

では、どちらの陣営が、08年の大統領選挙で優位に立っているのか。Kuttnerは、いずれにしてもルービン陣営が影響力を維持するだろうと指摘する。ヒラリー陣営はいうまでもないが、オバマ陣営にもルービン人脈が食い込んでいる。期待できるとすればエドワーズだが、ポピュリスト路線であるだけに、仮に大統領になれば、ウォール街との仲介役(=ルービン)が必要になるというのである。

確かに、あまり知られていないかも知れないが、ハミルトン・プロジェクトのキック・オフ.イベントのメイン・スピーカーは、誰あろうオバマだった。また、このイベントでは、オバマの主要なアドバイザーといわれる、Austan Goolsbeeもプレゼンテーション(確定申告の簡素化!)を行なっていたという事実もある。

その一方で、ヒラリーといえども、ルービン派の言い分をそのまま受け入れているわけではないという指摘もある。実際に、ヒラリー陣営は、労組の盟友である、ゲッパート元下院議員とも連携しているようだ(Smith, Ben, "Strategists Bank on Budget-Neutral Policies", The Politico, April 2, 2007)。

ルービノミクス論争は、単なる路線論争というだけではなく、「影響力」の争いでもある。今後の政策論争にも、様々な人間模様がオーバー・ラップしてきそうである。

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