2007/07/02

Women for Hillary…or else

民主党の候補者レースの先頭を走るヒラリー・クリントン。その頼みの綱は、女性からの支持である。

5月29日から6月1日にかけてWashington Postが行なった世論調査によれば、女性によるヒラリーの支持率は、51%に達している(Kornblut, Anne E. and Matthew Mosk, "Clinton Owes Lead in Poll To Support From Women", Washington Post, June 12, 2007)。オバマに対するヒラリーの15ポイントのリードは、全てこの女性票に負っている計算になるという。ニューハンプシャーなどの序盤に予備選が行われる州を筆頭に、民主党の予備選挙では、女性の存在感が大きい。ヒラリーが予備選を勝ち抜こうとするにあたっては、女性票は何よりの援軍なのである。

もっとも女性によるヒラリー支持には濃淡がある。まず特筆されるのは、黒人などのマイノリティ女性の支持である。ゾグビー社の調査によれば、ヒラリーに対するマイノリティ女性の支持率は、オバマへの支持率を25ポイントも上回っている(Kuhn, David Paul, "White women may be Clinton swing bloc", Politico, June 4, 2007)。この点について、ゴアの選対を仕切っていた黒人女性のダナ・ブラジールは、人種の違いもさることながら、黒人は馴染みのある人を支持しがちなのだと解説している。ただ最近では、黒人票一般ではオバマ支持が急増しているという調査もあり、5月までのデータをもとにしたゾグビー社の評価は、少し古くなっているかもしれない。

オバマとの関係でいえば、女性からの支持についても、一般の有権者の場合と同じように、学歴とのリンクが見られるのも興味深い。前述のWashington Postの調査によれば、高卒までの女性では、ヒラリー支持が61%に達しており、オバマに対する支持(18%)を大きく引き離している。しかし大卒女性となると、ヒラリー支持(38%)とオバマ支持(34%)の差は格段に縮まる。

こうした学歴での濃淡と少し関連がありそうなのが、いわゆるフェミニストの間に、ヒラリーに対する複雑な感情がある点である(Chaudhry, Lakshmi, "What Women See When They See Hillary", The Nation, June 14, 2007)。同じフェミニストでも、ヒラリーを支持するのは、エミリーズ・リストなどの、どちらかといえば中道寄りの団体である。一方、Code Pinkなどの急進的な団体は、むしろヒラリーに敵対的ですらある。その背景には、ヒラリーの政策が必ずしも「急進的」ではないことへの落胆があるといわれる。急進的なフェミニスト達には、女性が大統領になれば、世の中は劇的に変わるという期待がある。しかし実際に大統領の座に近付きつつあるヒラリーは、既存の秩序に適応しながら伸し上がってきた。恐らくヒラリーが大統領になっても、フェミニストが夢見るようなアジェンダが一気に進むわけではない。にもかかわらず、女性大統領が誕生したのだから、フェミニズムの役割は終わったなどといわれかねないのが現実である。

彼女達は、ヒラリーが「ガラスの天井」を突破るだけでは意味がないと感じている。そもそもブッシュ政権では、ライス国務長官を筆頭に、高い地位に登用された女性が少なくなかった。それでは、ブッシュ政権は、フェミニズムにとって良い時代だったろうか?

一方のヒラリーも、フェミニスト的な立場を強調しているわけではない。むしろヒラリーが売り込もうとしているイメージは、「母親」としてのそれである(Kuhn, David Paul, "Hillary rallies women's support", Politico, June 4, 2007)。ファーストレディ時代のヒラリーは、「私は家にいてクッキーを焼いているような女性ではない」という有名な発言で、世の中の主婦層の怒りを買った。「母親」を強調する最近のヒラリーは、まるで当時の失敗を埋め合わせようとしているかのようである。

「最初の女性大統領」を目指しながら、なぜヒラリーは「フェミニストの候補」になろうとしないのか。2つの視点がある。

第一に、予備選に関していえば、ヒラリーにとって、「最初の女性大統領」という目新しさを切り札にするのはリスキーである。ヒラリーといえども、「新しさ」という点では、オバマにはかなわないからだ。むしろヒラリーが売りにできるのは、「経験」がもたらす安心感であり、急進的な主張との相性は微妙である(Cottle, Michelle, "Woman on the Verge", New Republic, June 8, 2007)。

第二に、本選挙を睨むと、ヒラリーには保守的な白人既婚女性票にも食い込む必要がある。民主党は男性票で共和党に遅れを取り易い。このため、民主党の候補が大統領選挙に勝つには、女性票で圧倒する必要がある。ヒラリーとしても、民主党支持者の女性票だけでは心許無い。

そこでヒラリー陣営が狙っているのが、白人の既婚女性票である。白人女性は、クリントン大統領でも、過半数を取れなかったグループである。ゾグビーの調査でも、白人女性全体では、ヒラリーよりもマケインやジュリアーニの方が人気がある。ヒラリーが「母親」を強調している背景には、こうした白人女性票を獲得するための、本選挙に向けた思惑がある。

このように、女性票といっても様々である。女心と…という言葉もあるが、その支持をいかにつなぎ止め、広げて行くかが、ヒラリーが「初の女性大統領」にたどり着くための、重要なチェックポイントになりそうである。

0 件のコメント: