Movement Candidate ? : オバマとネット・ルーツの距離感
最近民主党の予備選挙に関して良く聞かれるのが、オバマはディーンの再来なのかという問いかけである。確かに、飛び抜けた小口献金者の多さや、高学歴者に偏った支持層は、2000年(正確には1999年)のディーン旋風を思い起こさせる。しかし、オバマのキャンペーンは、ディーンとは明らかに性格が違う。「新しい政治」を謳う割りには、エスタブリッシュメントとの距離感がそれほど離れていないのである。
AEIのMatt Stollerは、オバマはムーブメント・キャンディデートではないと主張する。本来的なムーブメント・キャンディデートには、エスタブリッシュメントへの対抗概念としての色彩があり、そのアイディアを信奉する支持者が集まってくる。しかし、オバマのキャンペーンは、「新しい政治」を謳ってはいるものの、それ以上のアイディアの核は見当たらず、エスタブリッシュメントとの距離も遠いわけではない(Stoller, Matt, "Ronald Reagan and Movement Candidates: Idea Networks", Open Left, July 17, 2007)。
Stollerはこの辺りの特徴を、シンクタンクの研究者の行動を例示しながら説明する。Stollerはシンクタンクの研究者の間では、オバマのアドバイザーを目指した熾烈な競争が繰り広げられている筈だと指摘する。研究者とすれば、オバマが当選すればもちろんのこと、そうならなかった場合でも、キャンペーンで培った人脈が、キャリア・アップにつながるからだ。
このことは、オバマがエスタブリッシュメントの候補者である何よりの証である。オバマがムーブメント・キャンディデートであるとしたら、研究者がその陣営に加わることには、大きなリスクが伴う筈だからだ。ディーンのキャンペーンに明らかなように、ムーブメント・キャンディデートへの同調者は、エスタブリッシュメントには受け入れられない。従って、候補者が落選すれば、研究者自身の将来にも暗雲が立ち込める。将来への打算だけでは近付けないのが、ムーブメント・キャンディデートなのである。
それでもムーブメント・キャンディデートを支持したくなるのは、そのアイディアの力があるからだ。Stollerは、もっとも最近に大統領選挙を勝ち抜いたムーブメント・キャンディデートとして、レーガン大統領の名前をあげる。レーガン大統領は、サプライサイド経済学や規制緩和といったアイディアに同調する新しい人々を率いてワシントンに乗り込んだ。しかし、オバマにはレーガンに匹敵するようなアイディアとその同調者、すなわちムーブメントがない。
思い起こされるのは、オバマとネット・ルーツの微妙な関係である。ネット・ルーツこそは、新時代のムーブメント・キャンディデートを支える勢力だと考えられている。しかし、その大立者の一人であるMyDDのジェローム・アームストロングは、オバマは必ずしもネット・ルーツに支えられた候補者ではないという立場を取る。アームストロングは、オバマのキャンペーンはムーブメントではなく、「優れた候補者を擁する普通よりもよくできたキャンペーンに過ぎない」と指摘する(Cooper, Michael, "Lessons Learned as Obama Shepherds a Following", New York Times, June 23, 2007)。またアームストロングは、オバマに対する小口献金者の多さについても、「オバマの主流派に対する幅広いアピールが証明された。彼は、必ずしもブログを追いかけるような政治オタクではない、新しい人達を引きつけている」と評して、ネット・ルーツとの距離感を暗に示唆している(Armstrong, Jerome, "How Obama got his 258K donor movement", MyDD, July 17, 2007)。
実際に、オバマが集めた小口献金者は、必ずしもネットの力だけに頼った結果ではない。むしろ、オバマ陣営が利用したのは、集会におけるオバマの集客力である。実はオバマ陣営は、集会に参加するための安価な入場券の購入者や、会場でオバマ・グッズを買った人も、献金者にカウントしている(Kirkpatrick, David D., Mike McIntire and Jeff Zeleny, "Obama’s Camp Cultivates Crop in Small Donors", New York Times, July 17, 2007)。これまでの候補者には見られなかった新しいカウント手法であり、これによる上積み分は6~7万人ともいわれる(Armstrong, ibid)。
オバマ陣営が新しいカウント手法を採った背景には、したたかな計算がある。小口献金者の多さを印象づければ、現実の「草の根」がオバマになびいてくるという発想である。こうした計算高さは、並のムーブメント・キャンディデートには考えられない。
もっとも、ムーブメント・キャンディデートではないことは、オバマの弱みだとは言い切れない。むしろエスタブリッシュメントにも近いという立ち位置こそが、オバマを大統領になり得る候補者にしているのかもしれない。その辺りを見過ごしていると、オバマのキャンペーンの実力を見誤りそうである。
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