2007/07/13

争点としてのイラクの寿命:Ain't It Over, 'til It's Over ?

最近めっきり聞かなくなった名前といえば、カール・ローブである。あれほど「稀代の戦略家」と持てはやされていたのが嘘のようだが、そのローブが注目すべき発言を行なっている。来年の大統領選挙では、イラク戦争が他を圧倒するような争点になるとは思えないというのだ(Davis, Teddy, "Rove Says Iraq Won’t Dominate 2008", ABC News, July 09, 2007)。

理由は三つある。第一にローブは、「来年の春にイラクがどうなっているかを自分なりに予測すると」、イラクは大きな争点にはならないという結論が導き出されるとする。第二に、民主党の候補者も、イラク問題をトーンダウンしたいと思っているとローブは指摘する。選挙中のコミットメントのせいで、いざ大統領になった時の行動を縛られるのを嫌うからだ。そして第三の理由は、共和党の候補者は、国防政策をイラクに限定されない広い文脈で語ろうとするだろうという見立である。

曲者は第一の理由である。ローブは、来年の春にイラクが具体的にどうなっていると予測しているかは明言していない。しかしこの発言は、ホワイトハウスの否定にもかかわらず、やはりブッシュ政権内部で、米軍撤退に向けた立案が進んでいるという疑念につながる。

そんな雰囲気を感じているのか、ロムニー、ジュリアーニ、トンプソンといった共和党の有力候補者達も、増派の成功に命運を縛り付けられてしまわないように、少しずつ発言にニュアンスを加え始めている(Richter, Paul and Peter Nicholas, "GOP front-runners not wedded to 'surge'", Los Angels Times, July 11, 2007)。増派の判断は正しかった。しかし、戦略は状況に応じて変化していくものだ。そんな位置取りである。ローブにも近いグローバー・ノーキストは、こう解説する。「ブッシュの戦略がどうなるかもわからないのに、それと一体化してしまえるわけがない。9月には突然大きな曲がり角があるかもしれないのだ」。

もちろん例外はマケインだ。イラクの視察を終えたマケインは、自らのキャンペーンが瀕死の状態にある中で、引き続き増派への支持を訴えた。どうやらその脳裏には、ベトナム戦争の経験が甦っているようだ。マケインは、ベトナム戦争の時には、現地の状況に何の責任も負わない国内のリベラル左翼が、まだ戦略の初期段階だという米軍の意見を聞かずに、その撤退を余儀なくさせたと指摘する。「この映画は前にも見たことがある」。これがマケインの憤りである(Bresnahan, John, "McCain clashes with Voinovich", Politico, July 10, 2007)。

父親が始めた戦争を引き継ごうとした息子。かつて戦場に取り残された経験がある兵士。最後まで残った二人が戦っているのは、現実とは違う戦争なのかもしれない。

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