2007/07/10

The Emergence of a Leader:ペロシの正念場

独立記念日の休会が終わり、米国では議会が再開されている。女性初の下院議長となったペロシ議員にとっては、いよいよ正念場である。

ブッシュ大統領の支持率低下に負けず劣らず、有権者の議会に対する評価は厳しい。CBSが6月26~28日に実施した世論調査によれば、議会に対する支持率は27%であり、大統領支持率と並んでいる。背景には、多数党の交代がこれといった政策の変化につながっていないという現実がある。上院での議席の少なさが要因であるとはいえ、全議員が来年改選される下院を預かるペロシ議員としては、有権者の支持回復は急務である。

もっともペロシ議員も、民主党の中での地位は着実に固めているようだ(Weisman, Jonathan, "Edging Away From Inner Circle, Pelosi Asserts Authority", Washington Post, July 9, 2007)。そもそもペロシ議員は、民主党の団結強化と、少数党(共和党)の立場を尊重した議会運営という、相反する目標を掲げていた。しかし、実際の議会運営でペロシ議員が優先したのは、明らかに民主党の団結である。その証拠にペロシ議員は、共和党が民主党の内紛を誘うために提案した議題への投票を度々拒否している。明らかな少数党の権利の蹂躙である。

同時にペロシ議員は、党内の権力基盤の拡大にも手を付けているという。当初懸念されていたのは、ペロシ議員がリベラル系の取り巻きを重用し過ぎることだった。実際に、党のNo.2である院内総務に近しい関係にあるマーサ議員を登用しようと画策したという事件もあった。しかしペロシ議員は、取り巻きとのしがらみには必ずしも縛られない議会運営も行ない始めている。例えば最重要案件となったイラク戦費に関しては、問題のマーサ議員ではなく、オビー歳出委員長に陣頭指揮を取らせた。また、中間選挙勝利の立役者であるエマニュエル議員の存在感も大きい。対照的にかつての取り巻き議員の中には、ペロシ議員との会合が減少した事を嘆く声もあるようだ。

取り巻きとの距離感に続くペロシ議員の次なる課題は、ベテラン議員との関係である。民主党には、ペロシ議員よりもよほど経験のある議員が、委員長として権力を握っている。ペロシ議員とすれば、かつての共和党のような「強い指導部」を確立したいところだが、そのためには委員長達を名実共に支配下に置かなければならない。

その試金石として注目されているのが、エネルギーや温暖化問題を巡るディンゲル商業委員長との関係である。ミシガン州選出のディンゲル議員は、自動車業界への配慮から、温暖化問題への姿勢は必ずしも積極的ではない。この問題に力を入れたいペロシ議員との違いは歴然としている。とはいえディンゲル議員は、メディケアの創設に関わったほどのベテラン議員。ペロシ議員としても一筋縄では行かない。実際に、ペロシ議員がエネルギー自立と温暖化問題に関する特別委員会を新設した際には、領域を侵さないようにディンゲル議員に釘を差されてしまった。

現在両者のせめぎあいは、第二ラウンドに入っている。自動車の燃費基準に関する立法作業である。この問題に関しては、ペロシ議員がディンゲル議員の当初案をはね付けたために、その力の高まりが示されたと分析する向きが少なくない(Weisman, ibid)。しかし外交評議会のSebastian Mallabyなどは、むしろディンゲル議員の方が交渉におけるポジション取りが巧みだったとして、ペロシ議員には辛い評点を付けている(Mallaby, Sebastian, "A Word From the Speaker", Washington Post, July 9, 2007)。

Mallabyは、ディンゲル議員だけでなく、農業法の改正に関するピーターソン農業委員長との対決も重要だと指摘する。エタノール熱で農家が潤っているにもかかわらず、ピーターソン委員長は現行の補助金制度の温存を狙っている。ペロシ議員が「強い議長」の座を確立するためには、避けては通れない関門である。先を見通せば、08年の大統領選挙の結果次第では、初の女性大統領が誕生するか、そうでなくても、初の女性上院院内総務の芽が出てくる可能性が高い。「先輩格」としては少しでも先行しておきたいところかもしれない。

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