2007/07/06

Tax Tax Everywhere:累進性強化に動く民主党とその限界

今回の大統領選挙で、民主党と共和党の候補者の立場が少なくとも表面的には大きく分かれるのが、税制に対する態度である。共和党の候補者達はブッシュ減税の延長を旗頭に、おしなべて減税路線の維持を主張する。これに対して民主党陣営は、税制の累進性強化を提案し始めている。

6月28日に行われた民主党の候補者討論会で話題になったのが、前日に開催されたヒラリーの資金集めパーティーでの、ウォーレン・バフェットの発言である。この会合でバフェットは、「自分のような金持ちよりも自分の秘書の方が税率が高いのはどうしたことか」と述べた(Fouhy, Beth, "Buffett Helps Put on Clinton Fundraiser", Washington Post, June 27, 2007)。討論会でこの件について意見を求められた各候補者は、異口同音に「恵まれた人が相応の税金を払う仕組みが必要だ」と主張した。

バフェットの発言自体は、同氏のかねてからの持論であり、聞き覚えがある方も少なくないかもしれない。例えば、オバマのAudacity of Hopeには、オバマがバフェットに面会しに行って、同じ話を聞かされる場面が出て来る。クリントン人脈では、ジーン・スパーリングのThe Pro-Growth Progressiveにも同じ話が引用されているし、エドワーズも討論会では、直接バフェットからその話を聞いたことがあると発言している。

面白いのは、同じバフェットの話を題材にしながらも、有力候補者の答え方には、それぞれの色があった点である。

まず各候補者の回答を紹介する前に、米国の所得税は累進税なのに、なぜバフェットのような現象が起きるのかを謎解いておこう。最大のトリックはキャピタルゲイン・配当課税にある。バフェットの収入の多くの部分は、キャピタルゲインや配当が占めている。ブッシュ減税のおかげでこの部分の税率が低いので、全体的な所得税率も下がってしまうのである。また、社会保障税も曲者だ。社会保障税は所得の高低とは関係のない単一税率。しかも、税の対象になる所得には上限もある。

前述のように、累進性の強化という点では、各候補者の回答の趣旨は共通している。しかし、有力候補の中でも、もっとも完成度の高い回答をしたのは、最初に答える機会が回ってきたエドワーズだろう。エドワーズは、「成功している人たちは国や周りのコミュニティーにお返しをする責任を負うべきである」とした上で、第一にブッシュ減税の高額所得層向け部分を廃止すべきだと主張する。その上で第二に、バフェットのケースはキャピタルゲイン・配当課税が優遇されているから発生したことを忘れてはならないとして、「(キャピタルゲイン・配当課税の対象となる)富だけではなく(所得税の対象となる)労働を評価すべきだ」と締めくくった。過不足のない、美しい回答である。

これにたいしてオバマの回答は、税制に関しては累進性の強化が全てだと言って良い。実際にオバマは、ブッシュ減税の高額所得層向けの部分をスケジュール通りに廃止するべきだと主張した。もっともオバマの力点は、税制が云々というよりは、富める者も貧しい者も、みんなが一緒になって成長していくという意識が大切だという点にある。だからこそオバマは、余裕のある人が多めに税金を負担し、これを公平な機会が提供されるように使うべきだと指摘する。相変わらずの美しい議論ではあるが、税制の提案としては、正直食い足りない。これがAudacity of Hopeになると、一体感の大切さから、さらに話はワシントンと庶民の意識の乖離へと進んでしまい、ちっとも税制の話ではなくなってしまう。

ヒラリーの回答も面白い。ヒラリーは、バフェットの発言を説明する際に、社会保障税要因を紹介している。キャピタルゲイン・配当課税要因は既にエドワーズが取り上げていたので、ヒラリーとしては、もう一つの視点を指摘したかっただけなのかもしれない。しかし、この回答には、「さすが政策通」では済まされない落とし穴がある。ヒラリーは社会保障税の累進性を強化したいのかという疑念を招いてしまう点だ。所得税率やキャピタルゲイン・配当課税については、ブッシュ減税の見直しで、累進性の強化が実現できる。しかし社会保障税は、ブッシュ減税とは無関係である。それではヒラリーは、ブッシュ減税の見直しを超えた増税を目指しているのだろうか?さらに言えば、社会保障税の問題は年金改革と切り離せない。現にブッシュ政権は、年金改革の一環として、社会保障税の課税上限引き上げを検討していた時期があった。同じようにヒラリーも、高額所得層への課税強化で年金改革を実現しようとしているのだろうか?いずれの問いも、仮に答えがYESであれば、かなり大きなステートメントである。

実際には、累進性の強化といっても、ブッシュ減税の見直し以上の提案がされるのは稀である。有力候補者では、エドワーズがその可能性を否定していない程度である。今回のヒラリー発言についても、陣営は「特定の政策への支持ではない」と火消しに回った(Davis, Teddy and Tahman Bradley, "Democrats rip court ruling, show unity at debate", ABC News, June 29, 2007)。

減税一辺倒だったブッシュの時代からは、累進性の強化が表立って議論されるようになっただけでも、税制を巡る環境は大きく変わった。しかし、民主党の候補者にとって、"Tax and Spend"はいまだに嬉しいレッテルではないのも事実である。民主党の候補者がたどり着けるところは、それほど遠くはないのかもしれない。

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