2007/07/07

Trading Places:オバマのアドバイザーとグローバリゼーション

「米国で保護主義的な気運が高まっている背景には、所得格差の拡大がある。経済的に有害な政策を避けるためには、税制の累進性を高めて、所得の再配分を進めるべきだ」

「米国では国際競争への懸念が高まっているようだが、むしろ米国は他国に恐れられている存在だというのが現実である」

前者はブッシュ政権で経済諮問委員会のメンバーだったマシュー・スローターが共同執筆者になっている論文のエッセンス(Scheve, Kenneth F., and Matthew J. Slaughter, "A New Deal for Globalization", Foreign Affairs, July/Auust 2007)。後者は、オバマ陣営の経済アドバイザーであるオースタン・グールズビーのコラムである(Goolsbee, Austin, "How the U.S. Has Kept the Productivity Playing Field Tilted to Its Advantage", New York Times, June 21, 2007)。同じような時期に書かれたグローバリゼーションに関する論評ではあるが、まるで共和党と民主党の主張が入れ替わったかのような内容である。

スローターは、主に民主党系の識者の間で盛んになっている税制の累進性強化論に、グローバリゼーション擁護の立場からアプローチしている。その点では、ハミルトン・プロジェクトを率いるルービン元財務長官の方法論に近い。

その一方で、グローバリゼーションに強気なメッセージを出し続けているのが、グールズビーである。グールズビーのコラムは90年代に米国が成し遂げた生産性革命は、米国の特性が活かされた結果であり、他国に対する米国のアドバンテージは今後も続いていく可能性があると指摘する。

グールズビーの議論の根拠は、買収された企業の生産性を比較した英国の研究にある。この研究によれば、金融業などのサービス・セクターでは、米国企業に買収された場合の方が、他国企業に買収されたケースよりも、生産性の伸びが大きく高まっていたという。90年代の生産性革命は、IT技術の普及による部分が大きいというのが一般的な見方である。しかし、半導体の価格低下自体は欧州などでも起こっている。米国が抜け出せたのは、ITを生産性に転化する能力に長けていたからだ。

問題は、その「能力」とは何かという点である。グールズビーも指摘するように、通常の経済発展論であれば、後発国には先進国に学べるという利点があり、いずれは両者の水準は収斂していく。

ここまでくると、グールズビーの結論は、途端にオバマのアドバイザーらしくなってくる。何しろ、米国が他国に負けない強みは、「変化」への対応力だというのである。グールズビーは、90年代の世界経済に見られた変化の早さは、21世紀にも継続すると考える。大切なのは、変化に対応する柔軟性である。米国民は構造調整の苦しみを訴えるが、こうした調整ができるという事実こそが、米国の強さの裏返しなのである。

さすがは、Change Agentを任ずるオバマ陣営の経済アドバイザーである。

さらにグールズビーは指摘する。米国人でもグローバリゼーションに対応するのは苦しいかもしれない。しかし、明るい側面を見てみよう。ひょっとしたらフランス人に生まれていたかもしれないのだ。

なかなかどうして、フランス・バッシング(?)まで共和党流である。

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