2007/07/22

Emotional Rescue ?:民主党が頼る「新しい戦略」

最近の米国、特に民主党陣営では、「理屈にこだわっていても選挙には勝てない」という議論が持てはやされているようだ。どうやら、政治に大切なのは情熱なのだそうである(Coher, Patricia, "Counseling Democrats to Go for the Gut", New York Times, July 10, 2007)。

話題になっているのは、Drew WestonのThe Political Brainという本である。この本では、政治的な情報に脳のどの部分が反応するかが、映像を使って分析されているという。その結果は、政治家に関する情報に反応するのは、専ら感情を司る部分であり、理屈を司る部分はほとんど反応を見せなかったというものだった。また、仮に間違った情報であっても、自らが満足出来る内容でありさえすれば、脳のポジティブな感情を司る部分は反応したという。

Westenは、民主党に大切なのは、いかに感情を刺激するような言葉やイメージを活用するかだと主張する。これまでの民主党は、ともすれば理性的な立論で敗北から立ち直ろうとしてきた。しかし、脳の働きを見る限りでは、こうした戦法は不十分だというのが、彼の見立である。

このような「理屈ではない」という「理屈」が持てはやされるのが、何とも民主党らしいところである。背景には、ケリーのベトナム経歴批判のように、理屈というよりもイメージの戦略で共和党にやられてきたというフラストレーションがあるのかもしれない。その意味では、「フレーミング」へのこだわりとも同根だろう。しかし、「正しい情報よりも感情を揺さぶるメッセージが大事」などという議論につながりかねない危うさが感じられるのも事実である。何よりも、脳の働きまで分析してメッセージが発せられているというのは、あまり気持ちの良い話ではない。こうした議論こそが、リベラルの人を見下したインテリ臭い傲慢さとして、一般の国民に受け止められてしまうのではないだろうか。

そんな中で目を引いたのは、クリントン前大統領のコメントである。クリントンは、本の内容を絶賛した上で、なかでも感銘を受けたのは、「知的に不誠実にならなくても」、感情に訴えかけられるという議論だったと述べている。

オバマと比較すれば、どうしてもヒラリーは、脳の理屈を司る部分に働きかける候補者ということになる。その政治的な「ブレーン」だけに、何とも含蓄のある言葉である。

一方でクリントンは、ヒラリーのために、本のポイントに下線を引いてあげたという。クリントン本人にしてみれば、「こんなことは、わざわざ脳を分析しなくても分かっている」というところかもしれないが、やはり気になるものは気になるようである。

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