2007/07/24

Hard Habit to Break:格差問題の「政治」と「真実」

グローバリゼーションの弊害や、中間層の暮らし向きといった、いわゆる「格差問題」に連なる論点が、大統領選挙の焦点になってきている。攻勢に出ているのは民主党、それもポピュリスト的な勢力だが、その議論には現実からの乖離が大きくなっている側面がある。保守派の論客にして、このページの常連でもあるデビッド・ブルックスが、9つの実例を上げて解説している(Brooks, David, "A Reality-Based Economy", New York Times, July 24, 2007)。

1.平均賃金は景気循環に遅れてはいるが、最近では急速に上昇している。
2.最下層の収入も増えている。
3.所得の不安定さは大きくなっていない。
4.最近の格差の拡大は、グローバリゼーションのせいというよりも、教育やハード・ワークが評価されていることが原因だ。
5.企業は生産性の高い社員を評価するのが上手くなっており、成果主義の普及が格差の拡大につながっている側面がある。
6.高所得層の労働時間が相対的に長くなっているのも、格差の一因である。
7.稼いでいるのは、企業経営者というよりは、ヘッジ・ファンドのマネージャー。社会がメガ・リッチを生み出し易くなっているというよりも、巨額の資本を少数のメガ・リッチが動かしているのが現実。
8.CEOの給与が高騰しているのは、企業のサイズが大きくなっているからだ。
9.米国経済は素晴らしく良い状況にある。

政治的な現実を考えれば、今の米国においては、有権者の不安に応える政策が必要だ。しかし、それはあくまでも有害な政策運営に追い込まれないようにするための回避行動である。その時の政治状況で許される「よりまし」な政策にたどり着くには、現実との距離を見据えることが不可欠である。なかには統計のマジックのような議論もあり、政治の舞台で消化するのが難しかったりもするのだが、だからといって煽動的な議論に頼っていては、本末転倒である。

同時に、経済的な事実と、政治的な議論の境目を見つめる努力も欠かせない。統計というのは怖いもので、どんな解釈が出来る数字でも、作って作れないものはほとんどない。ブルックスの議論にしても、ほとんどコンセンサスになっているものもあれば、統計の解釈や、依拠する信念によっては議論が分かれる指摘もある。矛盾するようだが、政策の舞台では、事実は得てして相対的なものである。数字を使うには覚悟がいる。

それにしても、このページだったら、それぞれの項目だけで一つのエントリーになるものを、良くもここまでまとめてくれたものである。実際に取り上げていたテーマもあれば、準備していたものもある。まあ、挫けずにボチボチと取り上げて行くことにしよう。

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