2007/07/03

Money (Changes Everything ?):オバマとマケインの明暗

夏枯れの大統領選挙に久し振りに大きなニュースが届けられた。第2四半期の政治献金報告である。明暗を分けた2つの陣営が気にするのは、何故か04年の民主党予備選挙の記憶である。

今回の報告が明るいニュースになったのは、何といってもオバマである。3250万ドルの献金総額(うち3100万ドルが予備選用)は、ヒラリーの2700万ドル(同2100万ドル)を、余裕で上回った(Zeleny, Jeff, "Obama Campaign Raises $32.5 Million", New York Times, July 2, 2007)。予備選用の献金だけを見れば、その差は同じ期間のエドワーズの献金総額(約900万ドル)に匹敵する。オバマは二期連続して予備選用の献金額でヒラリーを上回った。民主党の予備選挙では、「組織と資金力ではヒラリーが圧倒的に強い」という「常識」の一角が、もはや通用しなくなった。

見逃せないのは、今回のオバマの報告には、ヒラリーのもう一つの「強み」、すなわちその組織力に迫る鍵が秘められている点である。オバマにとって、少額の献金を行なった草の根支持者のリストは、ボランティアによる動員活動を展開するための強力な武器になる。オバマへの新規献金者は、この四半期だけで15万4千人に達する。何と一日に1500人がオバマに献金した計算になるという(Zeleny, ibid)。オバマ陣営は、序盤戦ヒラリーもかなわないような潤沢な資金を投入し、そこでのモメンタムを、2月4日のスーパー・チューズデーには草の根の組織が引き継ぐというシナリオを描く。バージニア大学のサバト教授は、今回の結果がヒラリー陣営に突き付けた警告は本物だと指摘する。ヒラリー陣営が持ち合わせていないのは、草の根の熱気であり、それをコントロールしているのがオバマだからである("Obama Outraises Clinton by $10 Million", ABC News, July 2, 2007)。

もっとも、巨額の献金と草の根の熱気がありさえすれば、予備選を勝ち抜けるというわけではない。草の根の勢いを票に結び付けることの難しさは、04年のディーンの失速にハッキリと示されている。また、草の根は得てして急進的な動きをしがちなのも、「新しい政治家」を標榜するオバマには気掛かりだろう。その辺りはオバマ陣営も意識しており、草の根層とのコミュニケーションを慎重に行なっているようである(Cooper, Michael, "Lessons Learned as Obama Shepherds a Following", New York Times, June 23, 2007)。

04年の民主党予備選挙に教訓を読み取ろうとする候補者がいる一方で、同じ予備選挙の歴史にすがろうとする候補者もいる。今回の発表がとりわけ悪いニュースだったマケインである。

マケイン陣営は、第2四半期の献金額が1120万ドルにとどまったと発表した。目標は2000万ドルだったというのだから、随分と期待はずれな結果である(MacGillis, Alec and Dan Balz, "McCain Again Falls Short of Cash Goals", Washington Post, July 3, 2007)。それどころか、マケイン陣営は支出額が多いため、手元には200万ドルが残っているだけだという。マケイン陣営は、「今年中に1億ドル」という目標を取り下げ、大規模なリストラに踏み切った。陣営幹部は無給か減給。150人程度のスタッフのうち、50~100人は解雇される見込みだという(The Associated Pres, "McCain Cuts Staff Amid Poor Fundraising", New York Times, July 3, 2007)。

しかしマケイン陣営は選挙戦からの撤退は否定する。頼りにするのは、04年予備選挙でケリーが見せた復活劇である(Cummings, Jeanne and David Paul Kuhn, "Money woes signal McCain malaise", Politico, July 2, 2007)。03年の第3四半期には、ケリーはディーンに献金額で3倍の差をつけられていた。ニューハンプシャーやアイオワなどの世論調査も調子が悪く、評論家筋では「ケリーは終わった」なんていう評価が出始めていた。さらに年末には、自宅を担保に借金までして選挙資金を工面せざるを得なかったのである。

マケイン陣営は、当時のケリー陣営と同じ戦略を採用しようとしている。序盤戦での勝利に全力を尽くすのである。ケリーと同様に、マケインも他の候補と比較すれば経験などの点に強みがある。有権者がその点に気がつきさえすれば、復活はあり得る。そんな期待にかけるしかない(MacGillis et al, ibid)。

しかし、マケインとケリーというのも、考えてみれば皮肉な組み合わせである。マケイン陣営は、献金集めに苦労している理由を、人気を省みずに正しいと思った政策を貫く姿勢に求めている(Cummings et al, ibid)。まず、移民改革への支持が保守層を怒らせた。また、歳出削減へのあくなき戦いは、国防産業などの大口献金者との関係を悪化させた。さらに、イラク戦争への支持が、「一匹狼」としてのマケインを好んでいた無党派層からの献金を細らせた。だからといって、もっと巧みにflip-flopできていれば...というわけでもないのだろうが...

マケインの献金額を発表する電話会議では、回線待ちの間に不思議な音楽が流れていたという。「最善を尽くしたのに、十分ではなかったようだ。一度でいいから、何を間違い続けているのか突き止められないものだろうか」と歌うQuincy Jones & James IngramのJust Onceがあったかと思えば、B.B.KingのSince I Fell for Youには、「愛してくれたけど、次には冷たくあしらうなんて。でも僕に何ができるだろう」なんていう歌詞がある。さらには、Kenny RoggersのDon't Fall in Love with a Dreamerまでが流れたらしい(Milbank, Dana, "Shaking Up Is Hard to Do", Washington Post ,July 3, 2007)。

ちょっと出来すぎなような気もするが、なんとも上手くいかないときは上手くいかないものである。

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