2007/07/19

エドワーズが行く:Magical Poverty Tour

エドワーズは、南部諸州を回る「貧困ツアー(正式名称はRoad to One America Tour)」を終えた。票にならないイシューに焦点を当てる戦略は、エドワーズ浮上の切り札になるのだろうか。

今回のツアーは、エドワーズが今回の選挙の中心的なテーマにしている、貧困問題に焦点を当てるのが狙いだという。従ってエドワーズは、通常の選挙活動は一時的に中止して、今回のツアーに臨んでいるとまで主張している。確かに序盤に予備選が行われる州を訪れるわけでもなく、資金集めパーティーも開かれなければ、目立った演説もない(Pooley, Eric, "Can Poverty Define John Edwards?", Time, July 18, 2007)。

それよりも普通でないのは、貧困問題という「票にならない」争点に焦点を当てている点である。貧困層は米国の人口の13%を占める。先進国にしては高い割合だが、中間層の75%とは比較にならない(Simon, Roger, "Edwards risks backing the poor", Politico, July 18, 2007)。しかも貧困層は投票率が低く、政治献金をする余裕もない。エドワーズの戦略が、「勇敢にして大胆なのか、勇敢にして無謀なのかどちらかだ」と評されるのも無理はない(Bacon Jr., Perry, "On Tour to Highlight Poverty, Edwards Tries to Shift Race's Focus", Washington Post, July 17, 2007)。

もちろんエドワーズにも計算はあるだろう。それは、有権者が、選挙の打算よりも信念を持つ問題の解決を優先させる候補者を支持するだろうという思いである。言い換えれば、エドワーズが目指している候補者像こそが、ムーブメント・キャンディデートなのである。2004年の選挙ではコンサルタントに振り回されすぎたと感じたエドワーズは、コンサルタントからのアドバイスを断った上で、自分が信じる貧困問題を今回の選挙のテーマに据えたという(Bai, Matt, "The Poverty Platform", New York Times, June 10, 2007)。ちなみに、エドワーズが不満を持ったコンサルタントというのは、今回もっとも注目されているアドバイザーといわれる、オバマ陣営のデビッド・アクセルロード。そして、エドワーズ陣営で影響力を持ち始めているのが、ディーン陣営を仕切っていたジョー・トリッピである。

エドワーズの戦略の政治的な効果に疑問を呈する向きは少なくない。「400ドルの散髪」「ノースカロライナの豪邸」「ヘッジ・ファンドのアドバイザー」など、エドワーズには貧困とは相容れないイメージが多すぎる。また、今回の選挙に求められているのは、「貧困との戦い」的なポピュリズムではなく、バージニアのウェブ上院議員が主張するような「中間層を救え」というメッセージだという指摘もある。その意味では、2004年のエドワーズのテーマの方が適切だったのかもしれない(Douthat, Ross, "What's The Matter With John Edwards?", Atlantic, July 17, 2007)。

それでも、エドワーズの提起した問題が、単なる戦略ミスで片付けられてしまうのは寂しい気もする。貧困問題に限らず、エドワーズの提案には見るべきものが少なくない。有力候補者の中ではもっともポピュリスト的といわれるエドワーズだが、実際のところはそんなに単純な話でもない。エドワーズは「金持ちを批判したいわけではない」という立場だし、自由貿易にしても、途上国の貧困問題の解決に役立つと評価している。ロバート・ライシュなどは、「エドワーズは貧困問題を重視しているという点では経済的なポピュリストだが、金持ちや企業を全く非難しない」と残念がっているほどだ(Bai, ibid)。

エドワーズが貧困問題をキャンペーンの中心に据えたのは、エリザベス夫人の助言が大きいという。何やらティッパー夫人のアドバイスを受けたゴアが、環境問題に打ち込んで、敗北の失意から立ち直った話が思い起こされる。もっとも、候補者としては、ゴアに喩えられるというのも、あまり楽しい話ではないかもしれないが…

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