2007/07/28

With or Without You:ヒラリーとネット・ルーツの心地よい距離感

政治の世界では、全てを味方につけるのは不可能だ。そうであれば、死活的な敵を作らないようにするのが、巧みな戦略というものである。ヒラリーのネット・ルーツ対策がその典型だ(Wilson, Reid, "Clinton Makes Netroot Friends", Real Clear Politics, July 26, 2007)。

ヒラリーにとって、ネット・ルーツは潜在的な脅威である。そもそもヒラリーは典型的なエスタブリッシュメントの候補。そのこと自体が、反抗体質のあるネット・ルーツとは相容れない。さらに、イラクの問題がある。リーバーマンの上院予備選に明らかだったように、ネット・ルーツが盛り上がるのは反戦の動きである。下手をすればヒラリーは、ネットの世界で手痛い反対運動に直面していたかもしれない。そうなればヒラリーには、ますます「古い」候補という色彩が染み付いてしまっただろう。

しかし、今のところネット・ルーツはヒラリーに拒否感は示していない。確かに、エドワーズやオバマに比べれば、ネット・ルーツからの支持は極めて低い。それでも、熾烈な反ヒラリー運動が起こっていないだけでも、陣営にとっては成功だろう。

ヒラリーのネット・ルーツ対策は、敢えて意見の相違を埋めようとするのではなく、投票制度の改革など、むしろ共闘出来る部分を強調するものだという。また、ブッシュという「共通の敵」がいるという指摘も忘れない。さらに、陣営のスポークス・マンがテレビでネット・ルーツを擁護する発言をしたり、ネット・ルーツに人気のある人間に支持表明させるなど、ヒラリー陣営らしいそつのないネット・ルーツ対策も講じられている。

今のところヒラリーは、ネット・ルーツの支持を得るために、政策の内容を大きくシフトさせているわけではない。ヒラリー陣営にとって大切なのは反対させないことであって、支持を得ることではないからだ。何しろ、本選挙を睨めば、あまりに政策をネット・ルーツ寄りに動かすのは得策ではない。ヒラリーの強みはあくまでも「経験と強さ」に裏付けられた着実さであって、過激なスタンスは似合わない。

むしろ気になるのは、ヒラリーが「ネット・ルーツの候補」になった時かもしれない。オバマとネット・ルーツには微妙な距離感がある。オバマに猛追されてきた時に、ヒラリー陣営がネット・ルーツに近付こうとする可能性は捨て切れない。ヒラリーにとっては勝利への意外な秘策になるのかも知れないが、その一方で、フォースのダークサイドに踏み込むようなリスクも存在するように思われてならない。

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