2007/07/23

Never Ending Campaignとプリンスの底力

23日の夜(日本時間では24日の朝)に、サウス・カロライナで民主党の大統領選挙候補者による討論会が行われる。この討論会は、二つの意味で「初物」の討論会である。

第一の「初物」は、インターネットを通じて募集した、有権者の自作映像による質問が使われる点である(Seelye, Katharine Q., "Debates to Connect Candidates and Voters Online", New York Times, July 23, 2007)。この討論会はCNNとYouTubeの共催。中には使われる映像の選択権を主催者側が持っている点に不満を示す向きもある。本来ならば、ネット上の人気投票で決めるべきだというわけである。それにしても、新しい試みなのは間違いない。

もっとも、自分が驚かされたのは、もう一つの「初物」である。何と今回の討論会は、民主党では今選挙初めての討論会だというのである(Kornblut, Anne E., "Officially the First, Democrats' Debate Feels Like Anything But", Washington Post, July 23, 2007)。

だってこれまでも散々討論会をやってきてるじゃないか。そう思われる方も多いだろう。かくいう自分もその一人であった。しかし、討論会「のようなもの」は数あれど、民主党の全国委員会が認知した公式の討論会は6回しかない。今回の討論会は、その栄えある第一回なのである。

そうはいっても、民主党の候補者には、早くも「討論会疲れ」の傾向があるようだ。Washington Postによれば、候補者の悩みの種は、討論会自体というよりも、これに関わるロジスティクスだという。論点の予習やリハーサルはもちろんのこと、全米各地で実施される討論会に物理的に出向くだけでも大変な負担である。どの候補者も、キャンペーンは自らの戦略に則って運営したいもの。誰かにどこかに来いと指図されるのは真っ平御免というわけだ。

しかし民主党の候補者には特有の悩みがある。民主党は様々な利益団体に支えられている。数々の討論会は、こうした利益団体が主催するケースが少なくない。出席を断ろうものなら、その利益団体との関係が悪化しかねない。

今回の選挙戦は、ただでさえ異例の長期戦である。度重なる討論会によって、各陣営の体力がますます問われそうだ。

そんな時に目についたのが、プリンスの新譜に関する話題である(Pareles, Jon, "The Once and Future Prince", New York Times, July 22, 2007)。新作Planet Earthは、英国で新聞の折り込みとして配付され、大きな話題を呼んだ。今回に限らず、最近のプリンスは独自の活動路線で話題を呼んでいる。ネットの時代を迎えて、多くのアーティストは楽曲の希少性を保とうと四苦八苦している。しかしプリンスは、出来るだけたくさんの作品を公開し続けようとしてきた。セールスの観点からリリースにインターバルを置こうとするレコード会社には、公然と反旗を翻してきたほどである。

プリンスにはもちろん勝算がある。作り出し続けてさえいれば、人は必ずついてくる。より現実的に言えば、コンサートなどの他の収入源にもプラスの影響が見込める。実際に最近のプリンスは、少人数の観客を前にした高額のコンサートでも成功を納めている。大手電話会社のCMに曲が使われるかと思えば、スーパーボールでも演奏し、香水まで売り出す。これだけのバイタリティーと先進さが、プリンスが第一線に戻って来られた原動力である。同時に、これだけの作品を産みだし続けられる才能にも感服せざるを得ない。

プリンスの新作は、久し振りに80年代風のアクセスしやすい内容に仕上がっている。お疲れ気味の候補者の皆さんも、それが天職だと思うのであれば、天才の一作を聴いて気合いを入れ直してもらいたいものである。

かくいう自分も、「書いてさえいれば」の一念でこのページを続けている。惜しむらくは、彼我の才能の違いではあるが…

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