2007/02/28

What It Takes...オゾン・マン

大統領というのはそんなに魅力的な仕事だろうか。こんな贅沢な自問自答ができるのは、ゴア前副大統領くらいかもしれない。

米国では、アカデミー賞をきっかけに、ゴアの株が上がっている。本人は大統領選挙への出馬を繰り返し否定しているが、待望論は根強い。

2000年の大統領選挙でゴア陣営を率いたDana Brazileは、「(ゴアは)ぎりぎりになってから出馬しても、党や国をまとめられる」と指摘する(Allen, Mike, "Gore's Oscar Fuels Call for Late Run", Politico.com, February 26, 2007)。9~10月まで待っても、十分に勝機があるというのだ。

実際に、アカデミー賞の舞台で、ゴアが出馬を発表するという根も葉も無い噂もあった。ゴアの方は、こうした噂を逆手にとって、レオナルド・ディカプリオと遊んで見せたが、こうした弾けっぷりが、ますます待望論に拍車をかけるのかもしれない。

Politico.comが指摘するように、ゴアが注目を集める機会は、この後にも何度か訪れる。3月21日からは、議会の公聴会で、温暖化問題の証言を行なう。5月には、新著「The Assault on Reason」が出版される予定。さらに7月7日には、環境問題をテーマにしたコンサートを、世界的に主宰する。その度に、待望論が盛り上がるのだろう。

ゴア待望論の一因は、現在の候補者に対する物足りなさにある。Brazileは、ゴアのような高邁さとリーダーとしての資質を併せ持った人物がいないのは、どうにも気分が良くないと述べる(Brazile, Dana, "Gore Shut the Door on '08. What If Someone Opens a Window?", Roll Call, February 27, 2007)。

しかし、あれだけ厳しい戦いを経験した、自称Former Next Presidentが、もう一度選挙に身を投じる気になるだろうか。

大統領選挙は全人格をかけた戦いだといわれる。それだけに、敗北すれば、全人格を否定されたようなダメージを受ける。しかも、無数の国民の審判を仰ぐのは、本人だけではない。家族も同じ運命に晒される。

この辺の過酷さは、ABC Newsが最近行なったロムニー夫人へのインタビューでも明らかだ。この中でロムニー夫人は、自分の病気(多発性硬化症)について延々と聞かれた上で、ロムニーが治療の手掛かりになるかもしれない万能胚研究に消極的な立場に転じたことへの感想を聞かれている。その他にも、モルモン教への改宗の経緯や、メディアに「完ぺき過ぎる」と叩かれていることへの感想など、いささか踏み込む過ぎではないかと思うほどだ。しかも、予備選挙の投票が始まるまでには、まだ1年近くある。

敗北者は、昨日までの「仲間」の冷たい仕打ちにも耐えなければならない。Washington Postは、多くの敗北者が、追放者のように扱われるか(ケリー、デュカキス)、隠退状態に追い込められる(ドール)と指摘する(Booth, William, "Al Gore, Rock Star", Washington Post, February 25, 2007)。

ゴアはどうだろう。厳しい選挙戦、一瞬で消えた勝利の歓喜、フロリダの騒乱、最高裁での敗北。そして独り、環境問題を訴える行脚にでた。それが今や大統領待望論。支持者が"The Goracle"と呼びたくなるのも無理はない。

New Democratic NetworkのSimon Rosenbergは述べる。「ゴアは誰もがやりたがっていることを実現する道を見つけた。自由にやりたいことをやり、政策にも影響を与えている。いくつも会社を立ち上げ、映画も撮り、素晴らしい人生を送っている(Booth, ibid)」

まして、今ゴアが出馬しても、環境問題に焦点をあてるのは難しい。選挙は完全にイラクを中心に回っている。かつてゴアは、黒人の有力者を前に温暖化問題の熱弁を揮い、スタッフを驚愕させたという(Brazile, ibid)。しかし、バクダッドで「氷河が溶け出している」とやるわけにもいかないだろう。

何より、温暖化問題を訴える割には電気代が高いだとか(Tapper, Jake, "Al Gore's 'Inconvenient Truth'? -- A $30,000 Utility Bill", ABC News, February 26, 2007)、ヒラリー陣営が出馬の兆候を探るために彼の体重が減るかどうかに注目しているだとか(Thrush, Glenn, "Sizing Up the Odds for a Run", Newsday,February 27, 2007)、今更そんな世界に戻りたいだろうか。

しかし、James Carvileはこう述べる。

Running for President is like having Sex.

「一度やれば忘れられない。もう一度やりたくなる。ゴアは88年に参戦し、2000年にも立候補した。彼が大統領になりたいのは周知の事実だし、環境が整うかもしれない。出馬するかもしれないよ("James Carville: Al Gore Will Run in 2008", NewsMax.com, February 27, 2007)」

そもそも大統領選挙に出てしまうような人は、常人とは何かが違うのかもしれない。

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