2007/02/26

マーサ!!:迷走する民主党

何を見て戦っているのだろう。時々そんな思いに捕われる。そう、イラク戦争の話だ。しかし違う。ブッシュ政権の増派についてではない。迷走する民主党議会の対応の話である。

下院民主党は、補正予算の使い方に条件をつけるという試みに当面は踏み込まない見通しになったようだ(Weisman, Johnathan and Lyndsey Layton, "Murtha Stumbles on Iraq Funding Curbs", Washington Post, February 25, 2007)。反戦派の後押しを受けて、ほんの1週間位前には、今にも議会を通りそうだった提案の、余りに勢いの良い失速振りである。

計画はこんな具合だった(Bresnahan, John, "House Democrats' New Strategy: Force Slow End to War ", Politico.com, February 14, 2007)。いくら増派が不人気だといっても、戦費をいきなり削るのには、民主党内にも抵抗がある。敵地にある米兵を危険にさらすという批判を受けかねないからだ。そこで、議会は補正予算を満額認める。但し条件をつける。例えば、イラクに派遣する兵士は、十分な訓練を受けていなければならない。いかにも真っ当な条件だが、実は今の米軍がこうした条件を全て守るのは不可能に近い。それだけ米軍の人繰りは厳しい。議会とすれば、戦費を削ったといわれずに、実質的に増派に歯止めをかけられる。なかなかクレバーな案、のように見える。

問題は話の進め方だ。

こういう機微な戦略は、身内を固めた上で、批判勢力に体制を整える暇を与えないように、電光石火に進めてこそ威力を発揮する。実際に、このプランも最初は秘密裏に準備が進められていた。

ところがどうした訳か、民主党内が固まり切らない内に、企みが明らかになってしまった。しかも首謀者が喋ってしまったのである。最悪の場所とタイミングで。

先ずは場所。党内に根回ししてから、というのが定石だと思うが、一連の戦略を考えたペンシルバニア選出のマーサ下院議員は、いきなりネット上で、秘密裏に進めてきたプランを明らかにしてしまった。それも、反戦派のサイトで。

民主党は反戦派で固まっているわけではない。寝耳に水となった慎重派の議員にしてみれば、面白い訳がない。しかもこうした議員が神経質になっているのは、草の根活動家の「暴走」。標的にされてはたまらないからである。それが、よりによって、活動家とリンクされて計画が発表されてしまった。

タイミングも不味かった。問題のサイトにマーサ議員が登場したのは2月15日。下院が増派反対の決議を採択する直前の時期である。マーサはこの中で、民主党下院指導部が先導した拘束力のない下院決議ではなく、自分のプランが優れていると主張した。本来であれば、民主党がまとまらなければならない時にである。

さらに調子が悪かったのは、翌週議会が1週間休会に入ってしまったこと。不意をつかれた民主党指導部は、意見をまとめられず、マーサも発言しなくなった。その間隙を縫って、共和党は一斉にマーサのプランを批判した。結果的に、民主党からも異論が続出し、マーサ・プランの行方は怪しくなった。

それだけではない。民主党の分裂はさらに大きくなったかもしれない。反戦派は、マーサの計画でも中途半端だと批判する。一方で慎重派は、イラク戦争の進め方を「監視」することに専念すべきだと主張する、といった具合だ。

マーサといえば、昨年末に民主党が下院の多数党になった際に、本命視されていたホイヤー議員を相手取って、民主党のNo.2(院内総務)に立候補して話題になった。ペロシ下院議長と近く、立候補も議長の差し金といわれたが、党内投票では惨敗。後味の悪さだけが残った。

民主党の対イラク政策は、上院が増派反対法案の投票に失敗したと思ったら、今度は下院がこの有り様。次は上院が、武力行使容認決議の見直し(Bresnahan, John, "New Democratic Strategy Calls For March 2008 Pullout", Politico.com, February 23, 2007)に動くという。

そうこうしているうちに、「増派」は着実に実行に移される。結局のところ、議会の動きは「戦場の現実」に追いつけなさそうだ。

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