2007/02/25

「上げ潮」が来るとあなたはどうなる?

Rising Tide Lifts All The Boatsという言葉は、今風にいえば、上潮政策の元祖といったところだろうか。米国でもかなり言い古されたこの言葉を、使わないようにするべきだと主張する議員がいる。

民主党にバーニー・フランクというマサチューセッツ選出の下院議員がいる。なかなかカラフルな議員だが、一月の講演で面白いことをいっている。政策を語る際に比喩を利用することを、「軽犯罪」にしたらどうかというのだ。比喩はえてして誤解を招くというのがその理由である。

それだけなら「そんなものかな」といったところだが、槍玉に上がったのが、Rising Tide Lifts All The Boatsだというのが、何とも今の米国の気分である。曰く、「上潮は全てのボートを浮上させる」訳ではない。ボートを持っていない人たちは、潮が上がったらどうするのか。なかなか巧みな言い方だ。

もっとも、政治の文脈での比喩の神髄は、喩えが新たな喩えを呼ぶところにある。逆説的だが、フランク議員の発言は、Rising Tide...が、バワフルな比喩である証である。

その証拠にもっと違った「比喩返し」も聞かれる。American Prospect紙のEzra Kleinなどがいう「上潮で浮かびあがるのは、金持ちがもっているヨットだけ」がそれだ("A Rising Tide That Lifts Only Yachts", Los Angels Times, May 5, 2006)。フランク議員と同様に、景気拡大の恩恵に預かっているのは一部の国民に過ぎないという、民主党のブッシュ政権批判を比喩に託した言い回しである。

ところで、この言葉の起源は何処にあるのだろうか。何となくレーガン大統領に結び付けて考えたくなるが、その歴史はもう少し古い。目立つところでは、J.F.ケネディがいる。Phrase Finderによれば、1963年6月の演説でJFKは、「地元のケープ・コッドでいうように、上げ潮はすべてのボートを浮上させるのだ」と述べている。そもそもこの言葉は、JFKが上院議員だった時代に、"The New England Council"という地元の経済団体から送られてきた資料に書かれていた標語が始まりだという。Rising Tide...の源泉は、保守派の心の拠り所から民主党の英雄にまで遡れるという訳だ。

さらにいえば、「浮上するのはヨットだ」という比喩返しも、既に90年代後半に使われている。1987年3月25日のRoll Call紙への投稿でこのフレーズを使ったのは、やはりケープ・コッドをよく知る政治家である。「上げ潮はもっと多くのボートを浮上させなければならない」と題するこの記事を書いたのは、民主党の重鎮にしてマサチューセッツ選出の上院議員。JFKの弟、エドワード・ケネディだ。

ケネディ兄弟は、同じケープ・コッドの海を思い浮かべながら、この比喩を使っていたのだろか。しかし、ケープ・コッドはマサチューセッツ州にある高級別荘地。ボートよりもヨットが多そうだ。

そういえば、同じ北東部の高級別荘地に、メイン州のケネバンクス・ポートがある。ブッシュ親子がよく釣りをしているところである。ここもヨットは多そうだ。ブッシュがRising Tide...を使うのであれば、彼が思い浮かべるのは高級なフィッシング・ボートであって、井の頭公園にあるような手漕ぎボートではないのかもしれない。

ことほど左様に、パワフルな比喩は世代を超え、いろいろな連想を生み出す。

政治にとって、言葉は本当に重要な道具なのである。

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