2007/02/17

ヒラリーが悪いわけじゃない

2008年ネタで始まりながら、最初の2本が目下「大本命」のヒラリー・クリントンじゃなかったのは、彼女が悪いわけではない。彼女が嫌いだから避けたわけでもない。勝てそうにないと思っているからでもない。

突発的に書き始めようと思った時が、オバマの出馬とほぼ重なった。そう思っていたら、ロムニーが出馬した。それだけのことだ。

要するに、タイミングである。

タイミングという点では、ヒラリー陣営の滑り出しは美しかった。「勝つために出馬する(I'm in to win)」とインターネット上でやってのけたのが、1月20日の土曜日。ネットでの出馬宣言は新しかったし、メディアの質問を巧みに封じて、最初のイメージコントロールを決めて見せた。そして、週末のテレビニュースを独占する。

翌週は月曜から水曜まで、毎晩夜の7時からホームページ上で画像でのチャットを30分ずつ。自分も最後の2回を見たが、相変わらずのリラックスした雰囲気で、次々と質問に答えるヒラリー。どこまで質問をスクリーニングしているのかわからないし、それなりに厳しい質問はあったが、やはり画面をコントロールしているのに違いはない。

タイミングも良い。2回目(23日)ブッシュ大統領の一般教書演説の当日。演説に「何を期待するか」をさりげなく語ったと思ったら、1時間半後には同じ服装で演説聴講。お、つながっている、と思わせる。そして、3回目(24日)は演説の翌日でその感想。美しい。

オバマは出馬が2月とわかっていたから、しばらくはメディアの注目はヒラリーに集まった。実際の遊説では、必ずしも好評だけではなかったが、支持率はしっかり上がった。いつものPollingReport.com

USA Today/Gallup Poll. Feb. 9-11, 2007. N=495 Democrats and Democratic leaners nationwide.

"Next, I'm going to read a list of people who may be running in the Democratic primary for president in the next election. After I read all the names, please tell me which of those candidates you would be most likely to support for the Democratic nomination for president in the year 2008, or if you would support someone else. . . ." Names rotated

                 2/9-11/07 1/12-14/07 12/11-14/06 11/9-12/06
Hillary Rodham Clinton       40     29     33      31
Barack Obama             21       18       20       19
Al Gore                  14     11     12      9
John Edwards             13      13     8      10

オバマも上がってはいるが、ヒラリーがトップであることに違いはない。

ヒラリーとオバマといえば、イラク戦争をめぐる応酬が熱を帯びている。タイミングという点では、ヒラリーが先を行き、オバマがすぐにちょっとだけ先に出る、というのがここまでの展開だ。

1月17日 ヒラリー、ブッシュの増派(surge)提案に対し、駐留米軍の人員数を増派前の水準にとどめるべく、上限(cap)設定の法案を提案すると発言。
翌18日 オバマ、capだけでなく、段階的撤退を含んだ法案を提案すると発言。

1月28日 ヒラリー、ブッシュは任期中(08年中)に戦争を終える責任があると発言。
翌29日  オバマ、08年3月31日までに撤退を完了すべきと発言。

オバマは戦争開始の時に上院議員ではなかったので、戦争開始決議に投票しないでよかった。イリノイ州上院議員として戦争反対の演説をしていたので、「最初からイラク戦争に反対していた」と強調する。もっとも、連邦上院議員になってからは、ほとんどイラク戦争反対の論陣を張っていなかったのは、周知の事実ではある。

他方のヒラリーは、戦争開始決議に賛成票を投じなた点について、「謝罪」していないと反戦派に攻められている。どうして彼女はこだわるのか。

この点については、Dick Polmanの論評が参考になる。Polmanは、ヒラリーが浮動票を獲得するには、ケリーのように日和見(Flip-Flop)とみられるわけにはいかないと指摘する。さらにこうも書く。

One Democratic strategist, thinking ahead to the ’08 general election, tells me that the Hillary camp wants to allay the (unfair) suspicion, especially among some white male voters, that a woman might be reluctant to use military force in a crisis. Hence the desire, during this campaign, to avoid any incident that would allow rivals to paint her as irresolute. Hillary’s people would prefer that she head into a general election, presumably against a tough-guy opponent such as John McCain or Rudy Giuliani, with the kind of tough-lady image that worked for Margaret Thatcher in Great Britain and Golda Meir in Israel.

つまり、ヒラリーは、女性だからこそぶれないところをみせる必要があるというわけだ。

もっとも、Polmanのブログへのコメントにもあるように、こうした計算を感じさせてしまうことこそが、ヒラリーの弱みになっているような気もする。ワシントン・ポスト紙のRuth Marcusは、ヒラリーのニュー・ハンプシャー遊説を論ずる文章にこう書いている。

On the eve of the primary three years ago, New Hampshire voters fixated on electability: They weren't so much swept away by John F. Kerry as calculating that he had the best shot of winning. Their hearts may have been with Howard Dean and his antiwar stance, but their heads were with Kerry and his pragmatic pitch: "Don't just send them a message. Send them a president."

Today, the mood feels different -- whether it's because that electability strategy didn't work out so well; that Bush will be out no matter what; that Democrats seem favored to win in 2008; that Iraq is more of a disaster; or that the primary is far enough away that voters can vent now and strategize later.

For the moment, Democratic primary voters don't want Kerryesque parsing.

民主党の支持者は、ニュアンスに富んだ物言いには飽き飽きしている。メッセージ云々よりも、「勝てる候補」を選ばなければという、2004年の力学は今は働いていない。

ヒラリーが前回の大統領選挙に出ていたら、どうなっていただろう。

結局のところ、ヒラリーのタイミングは正しかったのだろうか。

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