「右翼の巨大な陰謀」は蘇るのか
予備選挙のトップランナーであるヒラリーに対して、民主党内には「本選挙では勝てないのではないか」という不安の声があるといわれる。ヒラリーを嫌う人は多く、また、共和党支持者が反ヒラリーで盛り上がってしまうという懸念である。
ところが、肝心の共和党側には逆の懸念があるらしい。「ヒラリーにはとてもかなわない」というのだ。
Politico.com(Sheffield, Carrie and Jim VandeHei, “GOP Views Clinton as Virtually Unbeatable”, February 7, 2007)は、共和党のベテラン政治家や活動家が、『ヒラリー・クリントン大統領の誕生という悪夢』の現実化を感じていると伝える。
理由は2つある。
第一にヒラリーの力。共和党陣営は、ヒラリーが民主党内で圧倒的に優位にあると捉えている。今の共和党候補者では、ヒラリーの組織力・資金力に到底かなわない。そんな脅威もあるようだ。
第二に共和党への逆風の強さである。共和党の戦略家は、「ブッシュの支持率やイラク戦争への支持がここまで低いままでは、(共和党の候補者が)大統領選挙に勝つのはほとんど不可能だ」と述べている。
反ヒラリー勢力が動き出していないわけではない(Braun, Stephen, “GOP Activists Circling Clinton’s Campaign”, Los Angels Times, February 18, 2007)。
ヒラリーを”Swift Boat”しようとする勢力は、既にホームページ(StopHerNow.Com)を立ち上げている。2004年に民主党のケリー候補に多大なダメージを与えたSwift Boat Veterans for Truthを理想とし、早い段階でヒラリーに打撃を与えるのが狙いだという。
また、マイケル・ムーアの『華氏911』のように、反ヒラリーの映画を作ろうという動きもある。プロジェクトにはクリントン夫妻のアドバイザー転じて天敵となったDick Morrisが加わっている。カメラでヒラリーの選挙運動を追いかけるなど、あのMacaca事件を思わせる構想もあるらしい。さらに、製作会社のチェアマンは、悪名高き『Willie Horton(1988年の大統領選挙で、民主党のデュカキス候補に対して流されたテレビ・コマーシャル。同候補が知事を務めたマサチューセッツ州で、終身刑の死刑囚が一時保釈中に脱走、女性に暴行を加えた事件を題材としており、同候補の大きな打撃となった)』の作成に携わっていたという。関係者は、「右翼の巨大な陰謀(思えば懐かしいフレーズだが)は健在だ」と意気軒昂だ。
しかし共和党支持者には、90年代の反クリントン・ムーブメントと比較して、反ヒラリー・ムーブメントの盛り上がりに疑問を呈する向きが少なくない。イラク戦争の現状を前にすれば、ルインスキー事件などのクリントンの『罪』は些細な出来事に見える。草の根の反応は鈍く、90年代に反クリントン・ムーブメントに200万ドルを投じた「巨大な陰謀」の立役者も、今回は反ヒラリーに与していない。StopHerNow.comも、資金集めは必ずしも順調ではないらしい(Kirkpatrick, David D., “As Clinton Runs, Some Ole Foes Stay on Sideline”, New York Times, February 19, 2007)。
長い目で見れば、『ヒラリー大統領』が誕生した方が、共和党にとって得るものが大きいという意見すらきかれる。共和党のトム・ディレイ元院内総務は、「ヒラリー大統領の誕生は、保守運動や共和党にとって最良の出来事になるかもしれない。95年に共和党が議会の多数党を取り返したように、共和党にとってこれまでで最良の出来事はクリントン大統領の誕生だったのだから」と述べている(Sheffield et al, ibid)。
共和党支持者の間では、「ヒラリー大統領やむを得ず」というあきらめが、共和党側の候補者への倦怠感にすらつながっているといわれる。
一方で、民主党内ではヒラリーの脆弱性が、相変わらず熱心に語られている。
何とも対照的な展開である。
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