2008/01/31

How Economy Learned to Stop Worrying and Love McCain

スーパーチューズデーでマケインの指名獲得がほぼ確実になる可能性が出てきている。一旦は消えたと思われたマケインがなぜ復活できたのか。ニューハンプシャーでの「番狂わせ」と同様、選挙ウォッチャーが考えなければならない課題である。

トリッキーな要素の一つは経済の争点化だ。ロムニーはビジネスの経験もあり、経済に関する提案も緻密である。パワーポイントを使ったプレゼンテーションなどは、大統領候補としては異例だろう。ロムニーのミシガンでの勝利は、景気停滞に苦しむ同地域で、経済問題に焦点を絞った戦いが功を奏したという見方が一般的だ。立候補以前のスタンスや宗教上のハンデも手伝い、ロムニーは社会政策を中心に保守派の獲得を目指さざるを得なかった。しかし、経済問題への論点の移動は、ロムニーが最も得意な分野で勝負できるきっかけになるはずだった。対照的にマケインは、自ら「経済に関する知識は自分が理解すべき水準に達していない」と発言したことがあるほど、経済には強くない(Holmes, Elizabeth, “Romney’s New Groove”, Wall Street Journal, January 26, 2008)。発言を追っていても、景気対策の必要性を否定したり、デトロイトで「失われた雇用は戻ってこない」と「直言」してしまったり、グリーンスパンを賞賛してみたり(Eilperin, Juliet, “McCain's Economic Strategy: Bring in Greenspan”, Washington Post, January 17, 2008)。「ぶれのない姿勢」といえなくもないが、なんともタイミングが悪い。

それでも経済の争点化は、マケインにプラスになっている側面がある。四つの点を指摘したい。

第一は、経済争点化の裏側にある、テロ・イラク問題に対する有権者の関心の変化だ。経済の争点化と反比例するように、米国民のテロ・イラク問題への関心は低下している。このことは、二つの点でマケインにプラスに働いている。第一は、テロに対する関心の低下が、共和党のかつてのトップランナーだったジュリアーニの失速を招いた点だ。かつてバイデンが「ジュリアーニは、母音と子音と9-11しか話さない」と揶揄したように、ジュリアーニは9-11で得たヒーローとしてのイメージに頼りつづけた。こうした戦略は、有権者の関心の変化に対応しきれていなかったといわざるを得ない(Smith, Ben and David Paul Kuhn, “Rudy Defeat Marks End of 9/11 Politics”, Politico, January 30, 2008)。ブッシュの低支持率を鑑みれば、2002年や04年にブッシュが取ったのと同様のスタンスが通用すると考えるのが甘かった。マケインにとっては、有力な対抗馬が消えただけではない。ジュリアーニの支持層は、中道派であり外交政策での強さを求める。最も流れやすい次の候補はマケインだ。

第二はイラクにおける「増派」の成果である。中長期的な安定につながるかどうは別として、ブッシュ政権による「増派」がイラク情勢をある程度落ち着かせているのは事実である。マケインは「増派」の提唱者であり、常にこれを支持し続けてきた。こうしたマケインの姿勢は、一時は選挙でマイナスに働くとみられていた時期もあったが、現時点では大きなプラス要因として働いている。ジュリアーニは、9-11の成果を掲げながら、イラク情勢も改善させると主張した。しかしイラク情勢は、マケインが提唱しつづけてきた政策を維持することで、実際に改善してしまった。ここでも時代はマケインに動いていた(Bai, Matt, “The Post-Surge Campaign”, New York Times, January 30, 2008)。

経済の争点化がマケインにプラスに働いた第二の要因は、やはり「裏側」の動きにある。具体的には、移民問題の存在感の低下である。ブッシュ政権が掲げる「包括的な移民政策」は、不法移民に対する厳しい対応を優先する保守層に極めて評判が悪かった。昨年夏ごろにマケインが不調になった最大の理由は、民主党のケネディ議員と組んで、議会でブッシュ政権の「包括的な移民政策」の立法化を進めようとした点にあった。しかし、経済問題に争点が集中してくる中で、移民政策に関する議論は下火になってきた。そもそも移民問題は共和党陣営に限定された論点だった。それはどちらかというと社会的・感情的な側面からの関心であり、民主党側から起こるような雇用・経済に結びついた議論ではなかった。そして、経済への懸念が共和党にも広がる中で、移民問題の比重は低下していった。また、逆説的だが、ケネディ・マケイン法案の挫折も、移民問題の存在感が低下する一因になっている。その間にマケインは、国境警備の強化を重視する方向に、自分のスタンスを動かしている。ケネディ・マケイン法案についても、1月30日の討論会では、現在だったら賛成票を投じないとまで述べているほどだ。こうした方針転換を大騒ぎされずに行えたのも、移民問題の存在感の低下に拠る部分が大きい(Seib, Gerald, “McCain Gains as Furor Over Immigration Cools”, Wall Street Journal, January 29, 2008)。

第3の要因は、経済に対する不満がブッシュ政権に対する批判と重なっている可能性である。イラク情勢が安定化しながらもブッシュ政権の支持率が回復しない一因は、経済情勢の悪さの責任を問われているためだと考えられる。そして、フロリダの出口調査によれば、ブッシュ批判票を集めたのがマケインだった。

この辺りは、今回の選挙戦におけるマケインの存在のトリッキーさである。エスタブリッシュメントに立ち向かう「一匹狼」として戦った2000年の選挙戦と違い、今回の選挙戦ではマケインはエスタブリッシュメントの一員として戦おうとした。ブッシュ政権との禍根も清算し、イラク政策ではブッシュの支持にも回った。しかし有権者の中には、やはり「一匹狼」としてのマケインのイメージが染み付いている。だからこそ、マケインに反ブッシュ票が集まったという考え方も成り立つ(Cost, Jay, “How McCain Won”, Real Clear Politics, January 30, 2008)。

同時に、こうした有権者の「物覚えの良さ」は、移民問題に関してもマケインにプラスに働いているようにみえる。残された強硬な反対派の怒りが専らブッシュ政権に向かい、同じような政策を支持した筈のマケインは切り離されている気配がある(Weisman, Jonathan and Paul Kane, “After Romney’s Barrage, McCain Stands Tall”, Washington Post, January 30, 2008)。

第4の要因は、マケインの経済政策の中身が、ブッシュ政権に対する保守層の反感にマッチした可能性である。マケインの経済政策の基本は歳出削減の重視にある。2001・03年のブッシュ減税に反対票を投じた点は、減税を好む保守層から批判されている。しかし、保守層はブッシュ政権下の歳出拡大にも強い不満をもっている。今年の一般教書演説で、ブッシュ大統領が利益誘導型の歳出(Earmark)の削減を訴えた背景にあるのもこうした保守派の不満だ。経済保守はロムニー寄りといわれるが、歳出削減という点では、マケインこそが保守層にアピールしたというわけである(Henninger, Daniel, “What McCain’s Got”, Wall Street Journal, January 31, 2008)。

もちろんマケイン陣営も、経済争点化への対応を進めている。そこには二つの論法がある。第一は、議員としての自らの経験を強調すること。「レーガン革命の歩兵として戦い、上院商業委員会の委員長も務めた」といった具合である(Leonhardt, David, “McCain’s Fiscal Mantra Becomes Less is More”, New York Times, January 26, 2008)。第二は、キャラクターの議論に持ち込むことだ。そこでの構図は、ヒラリーとオバマの論争に似た部分がある。マケインは、ロムニーが細部にわたる知識の豊富さを誇っている点を逆手に取り、「マネージャーを雇うのは簡単だ。(しかし)リーダーは実際の(政治)経験と国家に仕える愛国心を持たなければならない」と述べている(Holmes, ibid)。「政策通よりもキャラクター」という論法は、オバマがヒラリーを皮肉って「自分はCOOではない」と述べたことを彷彿とさせる。ちなみにヒラリーは、「大統領とはCEOとCOOを兼務すること。自分は現場にかかわるマネージャーになる」と反論している(Snow, Kate and Susan Kriskey and Eloise Harper, “Clinton: Unlike Obama, I'm Ready to Be CEO and COO”, ABC News, January 16, 2008)。

有権者にも経済問題の点でマケインを懸念する傾向は今のところみられない。それどころか、フロリダの出口調査では、経済問題を重視する層が、ロムニー(32%)よりもマケイン(40%)に入れている。


ところで、経済問題での切り返し方に限らず、マケインとオバマの選挙戦には似通った傾向が少なくない。詳しくは後日に譲るが、第一はここで述べた政策通よりもキャラクターという論法であり、第二は超党派・融和へのメッセージ、第三はメディアとの相性のよさ、そして第四に生い立ち(軍人・黒人)から来る攻撃のしにくさである。

共和党ではロムニーが劣勢に立っている。果たしてヒラリーはどうだろうか。

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