How Late is Too Late?:景気刺激策への奔流
FEDによる緊急利下げが実施された。米経済を巡る状況は日に日に厳しさを増しており、盛り上がり始めた予備選挙もどこかに飛んでいってしまったような感がある。
ワシントンでは、景気対策を巡る議論が加速している。当初は1月28日の一般教書演説で景気対策を発表すると見られていたブッシュ大統領は、予定を繰り上げて18日にはGDP1%程度の刺激策を支持すると発表。22日には議会民主党との会合を開いている。タイミングの合わせにくさが指摘される景気刺激策だが、下院銀行委員会のフランク委員長は3月初めには審議を終えられるとの見方を披露している(Sahadi, Jeanne, “Tax rebates: Where's your check?”, CNNMoney, January 19, 2008)。2001年のブッシュ減税(5月末審議終了)、03年のブッシュ減税(同)、また、02年の景気対策(前年の9-11対応で議論が始まり、2月に審議終了)など、景気関連の審議は半年程度かかるのが通例。もし3月までに可決にこぎつけられれば、米国にしては異例に速い議論の進み方になる。
刺激策には二つの追い風が吹いている。第一は今年が国政選挙の年であること。大統領選挙にばかり目が行きがちだが、議会も秋には改選を迎える。第二に、政権と議会を違う政党が支配する「分割政府」であること。お互いに審議遅延の攻めを追いたくないという意識が働いている。平時であれば、「分割政府」は、政策決定の遅滞を招きがちだが、今は平時ではない。昨年までの米国政治は党派対立の厳しさが目立ったが、景気の急速な減速はワシントンの風景を変えつつある。
もっとも問題は、刺激策がどの程度の効果を持つかである。
ミシガン大学のクリストファー・ハウス等は、多くは期待できないと指摘する。主力と想定される戻し減税と投資減税の実績が芳しくないからである("Bush Stimulus May Have Only Modest Effect", Wall Street Journal, January 10, 2008)。
戻し減税については、2001年の事例がある。2001年の場合、戻し減税を消費に回すと回答した家計は22%に過ぎなかった(Shapiro, Matthew D. and Joel Slemrod, “Consumer Response to Tax Rebates”, NBER Working Paper No.8672, December 2001)。多くの部分は貯蓄に回されており、実際にこの時期には貯蓄率の上昇がみられたという。投資減税については2002年の例がある。当時の投資減税は、償却期間の長い設備に対象が絞られており、この部分では40%程度の投資促進効果があったとみられる。しかし、対象が極めて限定されていた上に、設備投資はGDPの8%程度に過ぎないために、景気への影響も限定的だったと指摘されている。加えて、投資減税は企業が投資を実施する時期を早めるだけで、追加的な投資を誘発する措置ではない。このため、長期的な成長力にも影響は与えられないという。また、タックス・ポリシー・センターのレン・バーマンは、2003年のブッシュ減税で2002年の投資減税の拡大・期限延長が行われた先例があるため、今回も企業は様子見を決め込むかもしれないと警告する。
他方で、2001年の戻し減税については、納税者の手元に渡ってから6ヶ月以内に三分の二が使われたという調査もある(Johnson, David S., Jonathan A. Parker and Nicholas S. Souleles, “Household Expenditure and the Income Tax Rebates of 2001”, NBER Working Paper No.10784, September 2004)。ブルッキングス研究所のジェイソン・ファーマンによれば、IRSは6月末までには戻し減税のチェックを送付し始められるという。Economy.comのマーク・ザンディは、戻し減税が1000億ドルの戻し減税が実施され、その三分の二が年末までに消費されれば、年率でGDP1%に相当すると指摘する(Sahadi, ibid)。
景気対策の主力が金融政策である点については、米国では異論はない。ハーバード大学のフェルドシュタイン教授は、2002年8月の講演で、マクロ経済を安定させるためのツールとしては、一般的には裁量的な財政政策よりも金融政策の方が優れていると指摘、「議会が景気刺激策の必要性を論じ始めるのは、景気が拡大に転じたことを示す最も良い指標かもしれない」とすら述べている(Feldstein, Martin, “Is There a Role for Discretionary Fiscal Policy? : comment”, August 2002)。しかし現在では、そのフェルドシュタイン教授さえもが、緩和的な金融政策と拡張的な財政政策のミックスが必要だと説いているのが現実である(Feldstein, Martin, “How to Avert Recession”, Wall Street Journal, December 5, 2007)。
市場のプレッシャーを受けながら、ワシントンは景気刺激策へと突き進みつつある。
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