アイオワ前夜のポピュリズム
あっという間にアイオワ党員集会前夜になってしまった。当地のマスコミは、いずれの党でも、一時のトップランナーが危うくなっているというストーリーラインで共通している。予備選挙の前倒しは、序盤州の存在感を低下させるとの見方もあったが、今のところはアイオワが全てであるかのような雰囲気だ。
もちろん、アイオワが終われば、報道の風向きはガラッと変わるかもしれない。つまづいた候補者にとっては、次のニューハンプシャーで建て直せるかどうかが正念場になる。共和党に至っては、「一時のトップランナー」であったジュリアーニのそもそもの戦略がフロリダからの反転攻勢であり、序盤での戦いぶりが肝心なのは、ロケット・スタートを見込んでいるロムニーだ。
党員集会の結果はさておき、選挙後の方向性という点で見逃せないのはポピュリストの風潮だ。民主党のエドワーズは、前回の選挙戦よりも攻撃的な色彩を強めている。アイオワの世論調査では、ヒラリーやオバマと近い数字を出しており、その動向は軽視できない。また、本来は中道であるはずのヒラリーも、既報のように通商政策などではポピュリスト寄りの発言が目立つ。
もっとも、より注目すべきなのは、共和党のハッカビーだろう。ハッカビーはその宗教色の強さから、保守派の支持を急速に集めてきた。しかし見落としてならないのは、オーソドックスな保守の考え方というよりは、ポピュリズムと形容した方がしっくりくるような、その経済政策である。ハッカビーは、貿易は公正でなければならず、雇用の海外流出に歯止めをかけなければならないと主張する。CEOの高給にも批判的で、「ウォール街からワシントンにかけての権力の枢軸は、完全に自分と敵対している」といって憚らない(Cook, Clive, "America in 2008: Populism Calls the Shots", Financial Times, December 27, 2007)。保守派の論客であるジョージ・ウィルは、ハッカビーの主張は、自由貿易や低税率、企業や市場原理による富の配分といった共和党のコアな信念から完全に逸脱していると指摘する(Will, George F., "The '70s Hit Parade", Washington Post, December 20, 2007)。
最近では移民にも厳しい立場を示す局面があることから、社会保守主義と経済ナショナリズムを併せ持ったそのスタイルをして、ハッカビーを「大言壮語のないブキャナン」などと評する向きもある。ブキャナンとの違いは、何といってもしゃべりのうまさであり、メディアが彼を支えている。状況としても、本来ならば潰しにかかるはずの共和党エスタブリッシュメントが弱体化している上に、経済的にもポピュリズム的な主張が受け入れられやすい環境にあるという(Heilemann, John, "Huckabuchanan", New York, December 17, 2007) 。
リベラル派のコラムニストであるE.J.ディオンヌは、ハッカビー台頭の背景には、共和党支持者の嗜好の変化があると指摘する(Dionne Jr., E.J., "Huckabee the Rebel", Washington Post, December 21, 2007)。そこで引き合いに出されているのが、社会的には保守的だが経済政策では政府の役割を評価する共和党支持者(プロ・ガバメント・コンサーバティブ)が増加しているというピュー・リサーチ・センターの分析だ。なかには、ハッカビーはいわれているほど政府の役割を拡大しようという具体策を示しているわけではなく、むしろ企業のモラルに訴えかけるという手法は、企業不信の問題に保守の立場からアプローチするにはリーズナブルなやり方だという評価もあるが、実はこうした評価をしている本人(Ross Douthat)自体が、「共和党は有権者の経済的な不安感に訴えかけるべきだ」と主張する、Party of Sam's Clubの筆者だったりする(Douthat, Ross, "Huckabee's Heresies", The Atlantic, December 20, 2007)。
もちろんポピュリズムの動きがあるのは共和党だけではない。見逃せないのは、とくに通商政策の分野に関して、民主党・共和党の双方の陣営から、自由貿易への無条件の支持を見直すべきだという意見が台頭しているように見受けられる点である。
民主党系の立場からは、最近のコラムでポール・クルーグマンが、圧倒的に賃金水準が低い国の台頭によって、90年代のように自由貿易が米国民の賃金に与える影響は軽微だとは言い切れなくなったと述べている(Krugman, Paul, "Trouble with Trade", New York Times, December 28, 2007)。保護主義に転向するわけではないが、とくに製造業においては、通商から利益を得られる国民はむしろ少数派だという事実に目を背けてはならないというわけだ。
共和党系の立場からは、ワシントンポストのトニー・ブランクリーが同じような発言をしている(Blankley, Tony, "Hillary, Huckabee and Trade; It's Time for a Free-Trade Debate", Real Clear Politics, December 5, 2007)。ブランクリーは、「先進国は自由貿易の敗者になるかもしれない」というポールサミュエルソンの議論を引き合いに出しながら、共和党も従来の考え方に縛られずに積極的に議論に参加すべきだと主張する。実際に賃金が下がったりはしないのかもしれないが、懸念する価値はある。伝統的な自由貿易主義者はハッカビーをシニシズム、ポピュリズム、デマゴークと批判するかもしれないが、もしかしたら米国民は、グローバリゼーションにかかわりすぎたエリートには見えない、本当の危機を嗅ぎとっているのかもしれない。そうブランクリーは指摘する。
米国はグローバリゼーションとの関わり方を整理しなければならない時期に差し掛かっているように思われる。誰がアイオワの勝者になろうと、ポピュリズムの勃興が投げ掛けた問いは消えないのである。
それにしても今日は寒い。ほぼ真夜中の自宅周辺はマイナス8度。体感温度はマイナス15度くらいだろう。
さて、明日のアイオワはどんな天気になるのだろう。それで大統領の行方が決まってしまうというのも、正直不思議な気はしてしまうのだが...
2 件のコメント:
いよいよ明日ですねえ。ここ1週間ほどで、多くの候補者が撤退するでしょう。1年間も準備して、勝負は一瞬でありますなあ。
今朝のNYはもっと寒いです。朝起きたらマイナス10度でした。アイオワはどうなんでしょう。
州外からの学生動員(州内の大学に通っていれば投票可)がオバマにプラスに働くということで、「まるでイリノイ州予備選みたいだ」とアイオワ州民がぼやいているそうです。いずれにしても、小さな州の、それも一部の州民だけが参加する予備選挙がここまでインパクトを持つとは...。
こんな日になんですが、これから家族のSocial Secuity Number申請にいってまいります。
大部分の米国人にとって、今日は本当に普通の(強いて言えば寒い)一日なのですね。
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