2008/01/05

アイオワ追想:Reach Up (and Touch the Sky)

アイオワ党員集会が終わった。結果はみなさんご存知の通り。ある程度は予想されていたとはいえ、劇的な結果といっていいだろう。民主党・共和党の双方で、「新星」が勝利を得たというのは特筆に価する。

しかし、正直なところ、米国の選挙を追うのは日本の方が楽かもしれない。結果が出たのは当地の夜10時台で、とりあえず当日の報道に目を通すのが精一杯。翌日になればニューヨークは米経済の見通しで持ちきりだから、振り返れるのはようやく深夜に帰宅してからという始末である。

それでも、遅ればせながら四つの点を指摘したい。

第一に、民主党と共和党の勢いの差である。党員集会で驚かされた数字は23.9万と12万だ。これはそれぞれ民主党と共和党の党員集会への参加者の数である。民主党員集会への参加者は、2004年の12.4万人をはるかに上回った。共和党も2000年の8.8万人を上回ってはいるが、その差は歴然である。本選挙を視野に入れれば、この数字の違いは無視できない。オバマの勝利が無党派層に支えられている側面がある点を考えればなおさらだ。オバマとハッカビーの勝利という結果をみる限り、無党派層が民主党に傾く一方で、共和党側では残ったコアな支持層である宗教保守の影響力が目立った格好である。

第二に、「変化」のメッセージが色濃く反映された結果だということである。民主党については言い尽くされた感があるが、共和党側についても同じことがいえそうだ。勝負をかけながら惨敗したロムニーは、本来ならば北部の州知事として「変化」のメッセージを出せる立場にあった。しかしロムニーは、「保守の3本の足(経済、外交、社会)」という概念を使い、専ら主流派としての戦いを行おうとした。同じく主流派になろうとして失敗しそうになったマケインと同じ轍を踏んだようにすらみえる。いずれにしても、メディアとしてはストーリーラインを作りやすくなったのは確かだ。

今回の選挙のキーワードは、「変化」と「能力」だと考えている。有権者の現状に対する強い不満が、「変化」を求めるうねりを起こしている。その一方で、ブッシュ政権の政権運営能力の無さへの幻滅や、戦争・テロの危険性は、「能力」のある候補者への欲求につながる。こうした構図に変化はないと思うが、イラク戦争やテロの懸念が後景に退き、むしろ経済問題が浮上する中で、「能力」よりも「経験」の比重が高まりつつあるように見受けられる。ヒラリーやロムニー・ジュリアーニには有難くない構図だろう。とくに「過去」の候補というレッテルを貼られかけているヒラリーは、むしろ90年代=クリントン政権の栄光を前面に押し出し、「経験」を切り札に反転攻勢に出ようとしているともいわれるが、諸刃の剣と言わざるを得まい(Smith, Ben, Jim VandeHei and Mike Allen, “HRC team retools strategy, predicts N.H. win” , The Politico, January 4, 2008)。。

第三に、「変化」のメッセージとして、「融和」が浮上している点だ。オバマのメッセージの肝は、変化を起こすには党派対立を超える必要があるという点にある。アイオワでの勝利スピーチは、2004年の民主党大会を想起させるような、「融和」の主張だった。目を引いたのは、ハッカビーもその勝利スピーチの中で、「融和」を意識した発言を行った点である。「アメリカ人は変化を求めている...その変化は私たちの挑戦が米国をもう一度結び付けなおす点にあると理解し、単に民主党や共和党というのではなく、米国人であることをもう一度誇りに思えるようにすることから始まる」という発言は、オバマのスピーチであっても不思議ではないような内容である。宗教右派は「非妥協的で攻撃的」という固定観念があるが、その辺りも見直す必要があるかもしれない。

第四に、「変化」「融和」といったメッセージが前面に出た反動で、具体的な経済政策という点では、比較的詳細さに欠ける候補が勝利を収める結果になった。民主党陣営では、エドワーズとヒラリー陣営の政策提案の完成度の高さは出色である。これに対して、オバマの提案はメッセージ性こそあるものの、内容面では一歩見劣りする。ハッカビーについては、Fair Taxに代表される面白い提案はあるが、なにぶんアドバイザーにも事欠く状況であり、政策の中身まで本人が詰めきれているとは到底思えない。この点でも、メッセージ優先の選挙結果ということができる。予備選挙中の政策論の必要性についてはかねてから議論がある。一つの主張が、選挙中の公約をそのまま実現できるわけではないのだから、むしろメッセージを大事にすべきだというものだった。アイオワでの結果は、こうした主張を裏付けた格好である。政策屋の自分としては、必ずしも有難い展開ではないが...

いうまでもなく、次のニューハンプシャーも大きな山場である。とくに民主党側では、ここでヒラリーが歯止めをかけなければ、状況はかなり苦しくなる。

注目されるのは、やはり無党派層の動向。無党派層がオバマに流れれば、ヒラリーにとって苦しいだけでなく、ニューハンプシャーでの勝利を目論むマケインにも打撃になりかねない。さらにいえば、無党派層の存在感の高まりは、いまだに参戦の機会をうかがっているようにみえるブルームバーグにも魅力的に映るかもしれない。

もう一つは、エドワーズ(票)の行方。エドワーズにとって、2位というアイオワでの結果は3位よりはましという程度。エドワーズは2位になるのならオバマに勝たなければならなかった。そうでなければ、ヒラリーを破ったオバマというストーリーラインだけが目立ち、両者の対決という構図が固まってしまう。エドワーズの存在感は低下せざるを得ず、Dead Man Walkingという評価もある始末だ。しかし、仮にエドワーズが撤退するとなれば、その票の行方は大きなインパクトを持つ。選挙戦がヒラリーを中心に回っていたために、エドワーズ票もオバマに流れやすい印象があるが、果たしてどうか。そうなれば、一気にオバマが有利になる。本人の言動を含めて見逃せない。

大きな「揺れ」を起こしたアイオワ。久しぶりに震えるような選挙の予感が走った。スーパーチューズデーまでの一ヶ月、経済にかかりっきりのニューヨークで、じりじりさせられる日が続きそうだ。

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