デミ・ムーアとオバマ、ケルアックとマケイン
オバマがなぜこのタイミングでの出馬を選んだのか。以前は政治的なタイミングにかけた大胆な決断という見方を紹介したが、オバマが属する世代の特性という解釈もできそうだ。
以前に触れたように、ヒラリーに対するオバマのセールスポイントの一つは世代の違いである。現在の党派対立の根源は60年代にあり、これを超えられるのはこの時代にはまだ幼かったオバマだけだという主張である。このサイトの論法が典型的だが、こうした議論はそれなりに魅力的である。
もっとも、こうした議論を取り上げる際に悩ましいのが世代の呼称である。米国では一般的に1946~64年生まれをベビーブーマーと呼ぶ。この定義に従うと、47年生まれのヒラリーも61年生まれのオバマも同じ世代になってしまう。最前列と最後尾という言い方はできるが、何となくパッとしない。
と思っていたら、ベビーブーマーの後ろの方だけを取り出した呼称があるらしい。同じ様な時代経験と特徴を持つというには、20年近くを一纏めにするのは行き過ぎというわけだ。ジョーンズ世代(Generation Jones)は、1954~65年生まれの世代を指す呼称。オバマは立派な一員である。
「ジョーンズ?」というのが多くの方の反応だろう。それらしい解説を紹介しよう(Pontell, Jonathan and J. Brad Coker, "Who elected Bush? 'Generation Jones'", Pittsburgh Post-Gazette, December 05, 2004)。ジョーンズというのは「欲しくてたまらない」という意味のスラングが語源だといわれる。60年代に幼少期を過ごしたこの世代は、戦後のアメリカの自信と豊かさに囲まれて、将来への大きな期待を育んだ。しかし、実際に社会に出た70年代から80年代前半は、必ずしも恵まれた世代ではなく、この世代は満たされず報われない喝防を抱えこんだ。だからこそ「欲しがりの世代」なのである。新しいガジェットに飛び付きやすいという特徴があり、ジョーンズ世代を狙った販売戦略は珍しくない。YouTubeやi-Tunesのユーザーも、3分の1がGeneration Jonesだという(Maciulis, Tony, "Keeping up with the Joneses", MSNBC, November 6, 2006)。
オバマとの関係で興味深いのは、ジョーンズ世代が置かれた現状に関する指摘である。この世代は、これまでの生き方を変える様な思い切った決断を下したくなっている。中年を迎えて、「今を逃せば後がない」という焦りが、「欲しがりの世代」を駆り立てているというのである。その一端は、経験不足がいわれるオバマだが、「欲しがり世代」の一員としては、いてもたってもいられなかったのかも知れない。
ちなみに、ジョーンズ世代の有名人といえば、80年代にBreakfast ClubやSt.Elmo's Fireなどで一世を風靡したBrat Packという俳優の一群がいる(Glenn, Joshua, "Generation Obama vs. the Boomers", Boston Globe, February 20, 2007)。要するに(?)、オバマはデミ・ムーア(62年)と同じ世代なのである。その他にも、例えばFast Times at Ridgemont Highに出ていた、ショーン・ペン(60年)やフィービー・ケイツ(63年)、フォレスト・ウィテカー(61年)もGeneration Jonesである。なんとなく雰囲気はお分かりだろうか?
ついでに有力候補の世代を整理しておこう。
○サイレント・ジェネレーション(1925~45年生まれ)
ジョン・マケイン(36年8月29日生まれ=ビート世代・25~41年生まれ)
フレッド・トンプソン(42年8月19日生まれ)
ルディ・ジュリアーニ(44年5月28日生まれ)
○ベビー・ブーマー(1946~64年生まれ)
ミット・ロムニー(47年3月12日生まれ)
ヒラリー・クリントン(47年10月26日生まれ)
ジョン・エドワーズ(53年6月10日生まれ)
バラク・オバマ(61年8月4日生まれ=ジョーンズ世代:54~65年生まれ)
全般的に共和党世代の古さが目立つが、発見だったのがマケインである。サイレント・ジェネレーションの一員に数えられるマケインだが、実は彼の世代には、ビート・ジェネレーション(Beat Generation)という呼称もあるのだ。ケルアックやギンズバーグとマケインというのは、不思議としっくりくるような気がするのは自分だけだろうか(だろうな...)。この期に及んでマケインに魅力を感じてしまう理由が分かった気がする。
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