不可思議なロムニーのヒラリーケア批判
ヒラリーの医療保険改革案は、共和党陣営から厳しい批判を浴びている。そのこと自体には何の不思議もないが、違和感を覚えざるを得ないのは、なかでも一際厳しい批判を展開したのがロムニーだった点である。ヒラリーの改革案とロムニーが州知事時代に実現したマサチューセッツ州の医療保険改革には、類似点があるからだ。
ロムニーのヒラリー批判は念の入り用が違う。ヒラリーによる発表の当日には、具体的な提案が明らかになる前に、ニューヨークの病院側の路上からいち早く非難声明を発表(Wangsness, Lisa, "In ways, Clinton healthcare plan resembles Romney's Mass. solution", Boston Globe, September 18, 2007)。こともあろうにジュリアーニの名前を冠した施設のある病院で、「断りもなしに…」と病院に非難声明を出されてしまったというしょうもないオチがあったが、ともあれヒラリー案はa European-style socialized medicine planに過ぎず、ヒラリーケア2.0は1.0と同じように失敗策だとこき下ろして見せた(Luo, Michael, "Clinton’s Rivals Blast Health Care Plan", New York Times, September 17, 2007)。さらにマサチューセッツの改革と似ているという評価を気にしてか、20日のウォール・ストリート・ジャーナルには、「マサチューセッツの改革とヒラリーケアは全くの別物」とする一文を寄稿している(Romney, Mitt, "Where HillaryCare Goes Wrong", Wall Street Journal, September 20, 2007)。
ロムニーが指摘するヒラリーケアとマサチューセッツの改革の違いは、次のようなものだ。第一に、ヒラリーケアは増税(ブッシュ減税の一部失効)が前提だが、マサチューセッツは違う。第二に、ヒラリーケアでは無保険者用に公的保険が拡充されるが、マサチューセッツでは民間保険の選択肢を増やした。第三に、ヒラリーは全国単一のシステムを押し付けようとしており、州独自の改革とは対極だ。第四に、ヒラリーは新しい公的保険を作り出して政府の役割を著しく拡大しようとしているが、マサチューセッツは規制緩和を重視した。第五に、規制緩和による保険料引き下げが、義務付けの前提にあるべきだ。
もっともロムニーの「言い掛かり」に反論するのは、それほど難しくない。マサチューセッツでは連邦政府からの補助金を利用したわけだが、それは政府の赤字であって、ファイナンスしようと思えば、増税が必要になる。マサチューセッツでも、メディケイド(公的保険)の拡充が試みられているし、新しい保険市場は公的に管理されている(ヒラリーは新しい政府機関は作らないとしている)。州改革重視論にしても、最終的には最良の改革への収斂が想定されているわけだから、それがマサチューセッツ型だったということならば、それはそれで良いのではないか。
何よりも見逃せないのは、語られていない二つの類似点である。第一は、ヒラリーもマサチューセッツも、無保険者の解消を目的にしているという事実である。第二は、その裏返しともいえるが、いずれの改革も、個人への保険加入義務付けを盛り込んでいることだ。ロムニーが何と言おうと、ヒラリー案への全面的な反論は、自らが携わったマサチューセッツ改革からの離反に外ならない。ロムニーはヒラリー案では義務付けの前提条件が整っていないというが、自分が義務付け自体を目指すかどうかは曖昧だ。
実際のところ、既にロムニーが提案している医療保険改革案は、共和党のラインに見事に沿った内容である。2004年の大統領選挙では、民主党のケリーが、イラク戦費に関して「賛成する前に反対した」と発言して嘲笑された敢えてマサチューセッツの改革を擁護するロムニーの姿勢には、同じような不可思議な変わり身を感じてしまう。何よりも、このまま共通項を否定し続けるようであれば、ロムニー政権下で超党派の医療保険改革が進む可能性は薄くなる。両者の距離が実は近いことは、決して米国にとって不幸なことではないと思うのだが、どうだろうか。
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