2007/09/03

Slippery When Wet : ブッシュのサブプライム対策

久しぶりに携帯を持って出るのを忘れてしまい、今日はゼロスタート。そこで、31日に正式に発表になったブッシュ政権のサブプライム対策をざっくりとまとめておきたい。

主要な提案は4つ。ホワイトハウスHUD(FHA部分)のプレスリリースを参考にとりまとめると以下のようになる。

1.FHA(Federal Housing Administration:連邦住宅局)の役割拡大
(1)行政府権限で実施する部分
<FHASecureの開始(即日)>
・サブプライムARMs(Adjustable Rate Mortgages:変動金利住宅ローン)の利用者のうち、リセットによる利子負担増が理由で延滞してしまった債務者のリファイナンスに対するローン保証を開始。従来は延滞者は対象外だった。
・利用条件は、①リセットまで遅滞なくローンを支払っている、②リセットが05年6月~09年12月までに実施される、③3%の頭金、④継続的な雇用暦、⑤ローンを支払うに十分な収入。
・比較的保守的な利用条件が課されており、「(ARMsの)優遇金利ゆえに高コストのローンに誘導されてしまった良好な借り手が」への限定的な救済措置の色彩が強い。
<リスクベースの保険料適用(08年1月~)>
・借り手のリスクに応じて高額の保険料を適用できるようにする。これまでよりも高リスクの借り手に保証を提供できるようにするのが狙い。
・具体的には、現行の初回1.55%・年間0.5%の一律保険料から、初回2.25%・年間0.55%までの幅を容認(Cowden, Richard, "Administration Introduces Plan to Allow FHA to Ease Refininancing Subprime Loans", Daily Report for Executives, September 4, 2007)。
(2)議会に立法化を要請
・頭金の引き下げ(現在3%)、保証対象ローンの上限引き上げ、保険金設定の柔軟性拡大

2.住宅税制の一時的変更
・差し押さえ・リファイナンスに伴うローン解除に関する所得税の賦課を一時的に休止(従来はローン減額分を税制上の所得として認識)。

3.差し押さえ回避イニシアティブ
・関連機関・団体と協力し、差し押さえの可能性がある債務者の特定、リファイナンス関連情報の提供などを実施

4.持ち家所有者保護・再発防止対策の支援
・金融当局による情報開示・貸し出し基準見直し、消費者による最適なローン選択を支援する規制措置、週によるブローカー登録制度の支援、詐欺・不正の摘発、金融教育・差し押さえカウンセリングの支援、格付け機関・証券化の役割を検討する作業部会の設置

今回の提案は、「借り手救済」という方向性にしても、個別の内容にしても、民主党の提案と重なる部分が目立つ。「イデオロギー的な乖離が少なくなった(フランク下院議員)」「まれにみる超党派的な展開(EPIのジャレッド・バーンステイン)(ElBoghdady, Dina, "Bush's Plan Brings FHA To Mortgage Front Line", Washingon Post, September 1, 2007)」「大統領はイデオロギー的な拘束衣を脱ぎ捨てた(シューマー上院議員)(Weisman, Steven R., "Bush Plans a Limited Intervention on Mortgages", New York Times, September 1, 2007)」などと、民主党筋からも異例とも言うべき好意的な評価が聞かれるほどである。

しかし、政権と民主党との差がなくなったわけではい。むしろ、政権が民主党の提案に乗ってこなかった部分も少なくない。GSEのポートフォリオ拡大には相変わらず反対だし、ヒラリーなどが提案するように連邦政府が新しい資金を拠出するわけでもない。個別の提案をみても、例えば住宅税制の変更に関しては、すでに議会に提案されている法案には、①投資目的の住宅・セカンドホームにも適用される余地がある、②恒久減税であるといった違いがある(Ferguson, Brett, "Bush's Says Canceled Mortgage Debt Should Not Be Counted as Income by IRS", Daily Report for Executives, September 4, 2007)。

そもそもブッシュ政権は、政策的な対応には後ろ向きであり、今回の提案にしても、事務方からは6ヶ月前に原案が提示されていたにもかかわらず、今まで店晒しになっていたという説もある。積極的な対応というよりは追い込まれての提案であり、「政策総動員」などというメディアの見出しは、やや言い過ぎのような気がしないでもない。    

もっとも、一度始めてしまった救済策は、次第に拡大していきがちなもの。それでなくても政権の対応策の政策的な効果は未知数である。FHA改革について言えば、これによる利用者の増加は、FHASecureが6万人、リスクベースの保険金で2万人の合計8万人。これによって2008年度のFHA利用者は24万人。これに対して、リセット対象者は200万人、潜在的な差し押さえ対象者は50万人ともいわれる(ElBoghdady, ibid)。4日から再開される米議会では、民主党が支援策の拡大を求めるのは必至の情勢。そもそも「政府にできることは少ない」とはいわれるものの、ブッシュ政権の防御ラインがずるずると後退する可能性は少なくないだろう。

気になったのは、ブッシュの提案に対するオバマの反応。「ロビイストの影響力を許してきたのがそもそもの原因」と始めているのは、明らかにヒラリーへの当て擦り。一体どこをみてのリアクションなのか。いくら当面の敵がヒラリーだとはいえ、いかにも度量の狭いリアクションではないだろうか。

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